ヘッダーファイル<variant>で定義されているvariantは、型安全なunionとして使うことができる。
#include <variant>
int main()
{
using namespace std::literals ;
// int, double, std::stringのいずれかを格納するvariant
// コンストラクターは最初の型をデフォルト構築
std::variant< int, double, std::string > x ;
x = 0 ; // intを代入
x = 0.0 ; // doubleを代入
x = "hello"s ; // std::stringを代入
// intが入っているか確認
// falseを返す
bool has_int = std::holds_alternative<int>( x ) ;
// std::stringが入っているか確認
// trueを返す
bool has_string = std::holds_alternative<std::string> ( x ) ;
// 入っている値を得る
// "hello"
std::string str = std::get<std::string>(x) ;
}
C++が従来から持っている古典的なunionは、複数の型のいずれかひとつだけの値を格納する型だ。unionのサイズはデータメンバーのいずれかの型をひとつ表現できるだけのサイズとなる。
union U
{
int i ;
double d ;
std::string s ;
} ;
struct S
{
int i ;
double d ;
std::string s ;
}
この場合、sizeof(U)のサイズは
になる。sizeof(S)のサイズは、
になる。
unionはメモリ効率がよい。unionはvariantと違い型非安全だ。どの型の値を保持しているかという情報は保持しないので、利用者が適切に管理しなければならない。
試しに、冒頭のコードをunionで書くと、以下のようになる。
union U
{
int i ;
double d ;
std::string s ;
// コンストラクター
// int型をデフォルト初期化する
U() : i{} { }
// デストラクター
// 何もしない。オブジェクトの破棄は利用者の責任に任せる
~U() { }
} ;
// デストラクター呼び出し
template < typename T >
void destruct ( T & x )
{
x.~T() ;
}
int main()
{
U u ;
// 基本型はそのまま代入できる
// 破棄も考えなくて良い
u.i = 0 ;
u.d = 0.0 ;
// 非トリビアルなコンストラクターを持つ型
// placement newが必要
new(&u.s) std::string("hello") ;
// 利用者はどの型を入れたか別に管理しておく必要がある
bool has_int = false ;
bool has_string = true ;
std::cout << u.s << '\n' ;
// 非トリビアルなデストラクターを持つ型
// 破棄が必要
destruct( u.s ) ;
}
このようなコードは書きたくない。variantを使えば、このような面倒で冗長なコードを書かずに、型安全にunionと同等機能を実現できる。
variantはテンプレート実引数で保持したい型を与える。
std::variant< char, short, int, long> v1 ;
std::variant<int, double, std::string> v2 ;
std::variant< std::vector<int>. std::list<int> > v3 ;
variantはデフォルト構築すると、最初に与えた型の値をデフォルト構築して保持する。
// int
std::variant< int, double > v1 ;
// double
std::variant< double, int > v2 ;
variantにデフォルト構築できない型を最初に与えると、variantもデフォルト構築できない。
// デフォルト構築できない型
struct non_default_constructible
{
non_default_constructible() = delete ;
} ;
// エラー
// デフォルト構築できない
std::variant< non_default_constructible > v ;
デフォルト構築できない型だけを保持するvariantをデフォルト構築するためには、最初の型をデフォルト構築可能な型にすればよい。
struct A { A() = delete ; } ;
struct B { B() = delete ; } ;
struct C { C() = delete ; } ;
struct Empty { } ;
int main()
{
// OK、Emptyを保持
std::variant< Empty, A, B, C > v ;
}
このような場合に、Emptyのようなクラスをわざわざ独自に定義するのは面倒なので、標準ライブラリにはstd::monostateクラスが以下のように定義されている。
namespace std {
struct monostate { } ;
}
したがって、上の例は以下のように書ける。
// OK、std::monostateを保持
std::variant< std::monostate, A, B, C > v ;
std::monostateはvariantの最初のテンプレート実引数として使うことでvariantをデフォルト構築可能にするための型だ。それ以上の意味はない。
variantに同じ型のvariantを渡すと、コピー/ムーブする。
int main()
{
std::variant<int> a ;
// コピー
std::variant<int> b ( a ) ;
}
variantのコンストラクターに上記以外の値を渡した場合、variantのテンプレート実引数に指定した型の中から、オーバーロード解決により最適な型が選ばれ、その型の値に変換され、値を保持する。
using val = std::variant< int, double, std::string > ;
int main()
{
// int
val a(42) ;
// double
val b( 0.0 ) ;
// std::string
// char const *型はstd::string型に変換される。
val c("hello") ;
// int
// char型はIntegral promotionによりint型に優先的に変換される
val d( 'a' ) ;
}
variantのコンストラクターの第一引数にstd::in_place_type<T>を渡すことにより、T型の要素を構築するためにT型のコンストラクターに渡す実引数を指定できる。
ほとんどの型はコピーかムーブができる。
struct X
{
X( int, int, int ) { }
} ;
int main()
{
// Xを構築
X x( a, b, c ) ;
// xをコピー
std::variant<X> v( x ) ;
}
しかし、もし型Xがコピーもムーブもできない型だったとしたら、上記のコードは動かない。
struct X
{
X( int, int, int ) { }
X( X const & ) = delete ;
X( X && ) = delete ;
} ;
int main()
{
// Xを構築
X x( 1, 2, 3 ) ;
// エラー、Xはコピーできない
std::variant<X> v( x ) ;
}
このような場合、variantが内部でXを構築する際に、構築に必要なコンストラクターの実引数を渡して、variantにXを構築させる必要がある。そのためにstd::in_place_type<T>が使える。Tに構築したい型を指定して第一引数とし、第二引数以降をTのコンストラクターに渡す値にする。
struct X
{
X( int, int, int ) { }
X( X const & ) = delete ;
X( X && ) = delete ;
} ;
int main()
{
// Xの値を構築して保持
std::variant<X> v( std::in_place_type<X>, 1, 2, 3 ) ;
}
variantのデストラクターは、そのときに保持している値を適切に破棄してくれる。
int main()
{
std::vector<int> v ;
std::list<int> l ;
std::deque<int> d ;
std::variant< std::vector<int>, std::list<int>, std::deque<int> > val ;
val = v ;
val = l ;
val = d ;
// variantのデストラクターはdeque<int>を破棄する
}
variantのユーザーは何もする必要がない。
variantの代入はとても自然だ。variantを渡せばコピーするし、値を渡せばオーバーロード解決に従って適切な型の値を保持する。
variantはemplaceをサポートしている。variantの場合、構築すべき型を知らせる必要があるので、emplace<T>のTで構築すべき型を指定する。
struct X
{
X( int, int, int ) { }
X( X const & ) = delete ;
X( X && ) = delete ;
} ;
int main()
{
std::variant<std::monostate, X, std::string> v ;
// Xを構築
v.emplace<X>( 1, 2, 3 ) ;
// std::stringを構築
v.emplace< std::string >( "hello" ) ;
}
constexpr bool valueless_by_exception() const noexcept;
valueless_by_exceptionメンバー関数は、variantが値を保持している場合、falseを返す。
void f( std::variant<int> & v )
{
if ( v.valueless_by_exception() )
{ // true
// vは値を保持していない
}
else
{ // false
// vは値を保持している
}
}
variantはどの値も保持しない状態になることがある。例えば、std::stringはコピーにあたって動的なメモリ確保を行うかもしれない。variantがstd::stringをコピーする際に、動的メモリ確保に失敗した場合、コピーは失敗する。なぜならば、variantは別の型の値を構築する前に、以前の値を破棄しなければならないからだ。variantは値を持たない状態になりうる。
int main()
{
std::variant< int, std::string > v ;
try {
std::string s("hello") ;
v = s ; // 動的メモリ確保が発生するかもしれない
} catch( std::bad_alloc e )
{
// 動的メモリ確保が失敗するかもしれない
}
// 動的メモリ確保の失敗により
// trueになるかもしれない
bool b = v.valueless_by_exception() ;
}
constexpr size_t index() const noexcept;
indexメンバー関数は、variantに指定したテンプレート実引数のうち、現在variantが保持している値の型を0ベースのインデックスで返す。
int main()
{
std::variant< int, double, std::string > v ;
auto v0 = v.index() ; // 0
v = 0.0 ;
auto v1 = v.index() ; // 1
v = "hello" ;
auto v2 = v.index() ; // 2
}
もしvariantが値を保持しない場合、つまりvalueless_by_exception()がtrueを返す場合は、std::variant_nposを返す。
// variantが値を持っているかどうか確認する関数
template < typename ... Types >
void has_value( std::variant< Types ... > && v )
{
return v.index() != std::variant_npos ;
// これでもいい
// return v.valueless_by_exception() == false ;
}
std::variant_nposの値は-1だ。
variantはswapに対応している。
int main()
{
std::variant<int> a, b ;
a.swap(b) ;
std::swap( a, b ) ;
}
std::variant_sizeは、Tにvariant型を渡すと、variantが保持できる型の数を返してくれる。
using t1 = std::variant<char> ;
using t2 = std::variant<char, short> ;
using t3 = std::variant<char, short, int> ;
// 1
constexpr std::size_t t1_size = std::variant_size<t1>::size ;
// 2
constexpr std::size_t t2_size = std::variant_size<t2>::size ;
// 3
constexpr std::size_t t2_size = std::variant_size<t3>::size ;
variant_sizeはintegral_constantを基本クラスに持つクラスなので、デフォルト構築した結果をユーザー定義変換することでも値を取り出せる。
using type = std::variant<char, short, int> ;
constexpr std::size_t size = std::variant_size<type>{} ;
variant_sizeを以下のようにラップした変数テンプレートも用意されている。
template <class T>
inline constexpr size_t variant_size_v = variant_size<T>::value;
これを使えば、以下のようにも書ける。
using type = std::variant<char, short, int> ;
constexpr std::size_t size = std::variant_size_v<type> ;
std::variant_alternative<I, T>はT型のvariantの保持できる型のうち、I番目の型をネストされた型名typeで返す。
using type = std::variant< char, short, int > ;
// char
using t0 = std::variant_alternative<0, type >::type ;
// short
using t1 = std::variant_alternative<1, type >::type ;
// int
using t2 = std::variant_alternative<2, type >::type ;
variant_alternative_tというテンプレートエイリアスが以下のように定義されている。
template <size_t I, class T>
using variant_alternative_t = typename variant_alternative<I, T>::type;
これをつかえば、以下のようにも書ける。
using type = std::variant< char, short, int > ;
// char
using t0 = std::variant_alternative_t<0, type > ;
// short
using t1 = std::variant_alternative_t<1, type > ;
// int
using t2 = std::variant_alternative_t<2, type > ;
holds_alternative<T>(v)は、variant vがT型の値を保持しているかどうかを確認する。保持しているのであればtrueを、そうでなければfalseを返す。
int main()
{
// int型の値を構築
std::variant< int, double > v ;
// true
bool has_int = std::holds_alternative<int>(v) ;
// false
bool has_double = std::holds_alternative<double>(v) ;
}
型Tは実引数に与えられたvariantが保持できる型でなければならない。以下のようなコードはエラーとなる。
int main()
{
std::variant< int > v ;
// エラー
std::holds_alternative<double>(v) ;
}
get<I>(v)は、variant vの型のインデックスからI番目の型の値を返す。インデックスは0ベースだ。
int main()
{
// 0: int
// 1: double
// 2: std::string
std::variant< int, double, std::string > v(42) ;
// int, 42
auto a = std::get<0>(v) ;
v = 3.14 ;
// double, 3.14
auto b = std::get<1>(v) ;
v = "hello" ;
// std::string, "hello"
auto c = std::get<2>(v) ;
}
Iがインデックスの範囲を超えているとエラーとなる。
int main()
{
// インデックスは0, 1, 2まで
std::variant< int, double, std::string > v ;
// エラー、範囲外
std::get<3>(v) ;
}
もし、variantが値を保持していない場合、つまりv.index() != Iの場合は、std::bad_variant_accessがthrowされる。
int main()
{
// int型の値を保持
std::variant< int, double > v( 42 ) ;
try {
// double型の値を要求
auto d = std::get<1>(v) ;
} catch ( std::bad_variant_access & e )
{
// doubleは保持していなかった
}
}
getの実引数に渡すvariantがlvalueの場合は、戻り値はlvalueリファレンス、rvalueの場合は戻り値はrvalueリファレンスになる。
int main()
{
std::variant< int > v ;
// int &
decltype(auto) a = std::get<0>(v) ;
// int &&
decltype(auto) b = std::get<0>( std::move(v) ) ;
}
getの実引数に渡すvariantがCV修飾されている場合、戻り値の型も実引数と同じくCV修飾される。
int main()
{
std::variant< int > const cv ;
std::variant< int > volatile vv ;
std::variant< int > const volatile cvv ;
// int const &
decltype(auto) a = std::get<0>( cv ) ;
// int volatile &
decltype(auto) b = std::get<0>( vv ) ;
// int const volatile &
decltype(auto) c = std::get<0>( cvv ) ;
}
get<T>(v)は、variant vの保有する型Tの値を返す。型Tの値を保持していない場合、std::bad_variant_accessがthrowされる。
int main()
{
std::variant< int, double, std::string > v( 42 ) ;
// int
auto a = std::get<int>( v ) ;
v = 3.14 ;
// double
auto b = std::get<double>( v ) ;
v = "hello" ;
// std::string
auto c = std::get<std::string>( v ) ;
}
その他はすべてget<I>と同じ。
get_if<I>(vp)とget_if<T>(vp)は、variantへのポインターvpを実引数にとり、*vpがインデックスI、もしくは型Tの値を保持している場合、その値へのポインターを返す。
int main()
{
std::variant< int, double, std::string> v( 42 ) ;
// int *
auto a = std::get_if<int>( &v ) ;
v = 3.14 ;
// double *
auto b = std::get_if<1>( &v ) ;
v = "hello" ;
// std::string
auto c = std::get_if<2>( &v ) ;
}
もし、vpがnullptrの場合、もしくは*vpが指定された値を保持していない場合は、nullptrを返す。
int main()
{
// int型の値を保持
std::variant< int, double > v( 42 ) ;
// nullptr
auto a = std::get_if<int>( nullptr ) ;
// nullptr
auto a = std::get_if<double>( &v ) ;
}
variantは比較演算子がオーバーロードされているため比較できる。variant同士の比較は、一般のプログラマーは自然だと思う結果になるように実装されている。
variantの同一性の比較のためには、variantのテンプレート実引数に与える型は自分自身と比較可能でなければならない。
つまり、variant v, wに対して、式 get<i>(v) == get<i>(w) がすべてのiに対して妥当でなければならない。
variant v, wの同一性の比較は、v == w の場合、以下のように行われる。
- v.index() != w.index()ならば、false
- それ以外の場合、v.value_less_by_exception()ならば、true
- それ以外の場合、get<i>(v) == get<i>(w)。ただしiはv.index()
二つのvariantが別の型を保持している場合は等しくない。ともに値なしの状態であれば等しい。それ以外は保持している値同士が比較される。
int main()
{
std::variant< int, double > a(0), b(0) ;
// true
// 同じ型の同じ値を保持している。
a == b ;
a = 1.0 ;
// false
// 型が違う
a == b ;
}
例えばoperator ==は以下のような実装になる。
template <class... Types>
constexpr bool operator == (const variant<Types...>& v, const variant<Types...>& w)
{
if ( v.index() != w.index() )
return false ;
else if ( v.valueless_by_exception() )
return true ;
else
return std::visit( []( auto && a, auto && b ){ return a == b ; }, v, w ) ;
}
operator !=はこの逆だと考えてよい。
variantの大小の比較のためには、variantのテンプレート実引数に与える型は自分自身と比較可能でなければならない。
つまり、operator < の場合、variant v, wに対して、式 get<i>(v) < get<i>(w) がすべてのiに対して妥当でなければならない。
variant v, wの大小比較は、v < w の場合、以下のように行われる。
- w.valueless_by_exception()ならば、false
- それ以外の場合、v.valueless_by_exception()ならば、true
- それ以外の場合、v.index() < w.index()ならば、true
- それ以外の場合、v.index() > w.index()ならば、false
- それ以外の場合、get<i>(v) < get<i>(w)。ただしiはv.index()
値なしのvariantは最も小さいとみなされる。インデックスの小さいほうが小さいとみなされる。どちらも同じ型の値があるのであれば、値同士の比較となる。
int main()
{
std::variant< int, double > a(0), b(0) ;
// false
// 同じ型の同じ値を比較
a < b ;
a = 1.0 ;
// false
// インデックスによる比較
a < b ;
// true
// インデックスによる比較
b < a ;
}
operator <は以下のような実装になる。
template <class... Types>
constexpr bool operator<(const variant<Types...>& v, const variant<Types...>& w)
{
if ( w.valueless_by_exception() )
return false ;
else if ( v.valueless_by_exception() )
return true ;
else if ( v.index() < w.index() )
return true ;
else if ( v.index() > w.index() )
return false ;
else
return std::visit( []( auto && a, auto && b ){ return a < b ; }, v, w ) ;
}
残りの大小比較も同じ方法で比較される。
std::visitは、variantの保持している型を実引数に関数オブジェクトを呼んでくれるライブラリだ。
int main()
{
using val = std::variant<int, double> ;
val v(42) ;
val w(3.14) ;
auto visitor = []( auto a, auto b ) { std::cout << a << b << '\n' ; } ;
// visitor( 42, 3.14 )が呼ばれる
std::visit( visitor, v, w ) ;
// visitor( 3.14, 42 ) が呼ばれる
std::visit( visitor, w, v ) ;
}
このように、variantにどの型の値が保持されていても扱うことができる。
std::visitは以下のように宣言されている。
template < class Visitor, class... Variants >
constexpr auto visit( Visitor&& vis, Variants&&... vars ) ;
第一引数に関数オブジェクトを渡し、第二引数以降にvariantを渡す。すると、vis( get<i>(vars)... )のように呼ばれる。
int main()
{
std::variant<int> a(1), b(2), c(3) ;
// ( 1 )
std::visit( []( auto x ) {}, a ) ;
// ( 1, 2, 3 )
std::visit( []( auto x, auto y, auto z ) {}, a, b, c ) ;
}