From 1d8df421b026d4b3a90a323904f374a9f471ed7b Mon Sep 17 00:00:00 2001 From: Hayato Ito Date: Sun, 31 Mar 2024 21:21:25 +0900 Subject: [PATCH] Add initial draft of book --- .env | 2 +- .gitignore | 1 - config-release.toml | 1 - src/draft/investing.md | 2007 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 4 files changed, 2008 insertions(+), 3 deletions(-) create mode 100644 src/draft/investing.md diff --git a/.env b/.env index 86da27d1..4811e7db 100644 --- a/.env +++ b/.env @@ -1 +1 @@ -SITE_VERSION=0.5.0 +SITE_VERSION=0.6.0 diff --git a/.gitignore b/.gitignore index b8d09f70..48228114 100644 --- a/.gitignore +++ b/.gitignore @@ -1,5 +1,4 @@ .log out .my-project -draft README.org diff --git a/config-release.toml b/config-release.toml index 8459a097..8e9ef640 100644 --- a/config-release.toml +++ b/config-release.toml @@ -1,3 +1,2 @@ name = "hayato" url = "https://hayatoito.github.io" -output_draft_article = "false" diff --git a/src/draft/investing.md b/src/draft/investing.md new file mode 100644 index 00000000..1e5daeb2 --- /dev/null +++ b/src/draft/investing.md @@ -0,0 +1,2007 @@ +# 普通の人が資産運用で 99 点をとる方法とその考え方 (DRAFT) + + + +# はじめに + +資産運用で 99 点をとる方法とその考え方について説明します。この記事の対象はいわゆ +る以下のような「普通の人」です。 + +- 資産運用は趣味ではない。 +- 資産運用を始めてみたいが何をしてよいのかわからない。 +- 資産運用をすでに行っているが毎年ころころと方針を変えてしまっている。 +- 資産運用に無駄に時間ばかり費やしている。 +- 今のところ資産はすべて銀行の普通口座や定期預金にいれている。このまますべて現金 + でおいておくのも何か損しているみたいでモヤモヤする。だけど難しいことは勉強した + くないし時間も使いたくない。 + +記事では最初に結論、すなわち「やるべきこと」を述べます。資産運用で 99 点の投資効 +率を達成するためにはこの結論部分を実行するだけでよいです。 + +次に、なぜそれだけで 99 点といえるのか、その裏付けとなる理論や考え方のコツを中心 +に説明します。 99 点をとるにあたってこれらの知識を勉強する必要はありません。しか +し、われわれ「普通の人」にとっては最初に決めた方針を貫くこと、別の言い方をします +と「余計なことをしないこと」が難しかったりします。この理論編は方針を継続する支え +となる知識を身につけるためにあります。 + +理論編の内容は難しいところがありますので、最初からすべてを読む必要はありません。 +難しいところはスキップしていただいて、考え方のコツを読むだけでも大丈夫です。理論 +編はあくまで必要に応じて、あるいは将来興味をもったときに読むことを想定していま +す。 + +最後に、いくつかの資産運用についてよくある質問とその答えをまとめています。 + +今後もこの記事の内容は必要に応じてアップデートする予定です。ただし、基本となる考 +え方は本質的でありこれからも変わることはないでしょう。 + +記事の内容に Typo や間違いを発見した場合、コメント・質問等がある場合 +は、[GitHub Issues](https://github.com/hayatoito/hayatoito.github.io/issues) に +報告や質問をお願いします。記事に載せたほうがよい質問があった場合は、適宜この記事 +に追加します。 + +最後にお約束ですが「投資は自己責任」です。この記事はあくまで筆者の考え方をまとめ +たメモと考えていただければ幸いです。 + +更新履歴 + +直 +接、[ここ (Blame の結果)](https://github.com/hayatoito/hayatoito.github.io/blame/main/src/2020/investing.md)を +みてもらうのが一番早いです。以下の更新履歴はおまけ程度です。 + +- [2024-01-06 Sat] 旧NISAについての記述を削除。表記は新NISA->NISAに。その + 他、Bardで校正等。 +- [2023-11-12 Sun] 構成を変更するとともに、結構な箇所を加筆。 +- [2023-01-08 Sun] FAQ: 「特定口座から新 NISA に移したほうがよいでしょうか?」を + 追加 + ([Issue #55](https://github.com/hayatoito/hayatoito.github.io/issues/55))。 +- [2023-01-08 Sun] 新 NISA に対応。 +- [2021-03-02 Tue] この記事は + [2020 年「はてなブックマーク年間ランキング」](https://hatenanews.com/articles/2021/01/08/183000)で + 一位になりました。 +- [2020-12-07 Mon] 現金 100%のアセットアロケーションを追加。 +- [2020-05-06 Wed] FAQ: 「インデックスに加えて個別株にも手を出しています。いけな + いでしょうか?」を追加。 +- [2020-01-24 Fri] 最適なポートフォリオを個人で組もうとする行為がいかに無駄かに + ついて加筆。 +- [2020-01-23 Thu] ドルコスト平均法について加筆。 +- [2020-01-23 Thu] いただいた質問(出口戦略・高配当株について)と答えについて追 + 加。 +- [2020-01-12 Sun] 中央値について加筆。中央値の良さを表す式を追加。 +- [2020-01-07 Tue] Fix Typo ( + [Issue #32](https://github.com/hayatoito/hayatoito.github.io/issues/32), + [Issue #33](https://github.com/hayatoito/hayatoito.github.io/issues/33), + [PR #34](https://github.com/hayatoito/hayatoito.github.io/pull/34), + [PR #35](https://github.com/hayatoito/hayatoito.github.io/pull/35)) +- [2020-01-05 Sun] Fix Typo (25,00 円 => 25,000 円) (via + [PR #26](https://github.com/hayatoito/hayatoito.github.io/pull/26)), + [PR #28](https://github.com/hayatoito/hayatoito.github.io/pull/28), + [PR #31](https://github.com/hayatoito/hayatoito.github.io/pull/31), スタイル修 + 正 ([PR #29](https://github.com/hayatoito/hayatoito.github.io/pull/29), + [PR #30](https://github.com/hayatoito/hayatoito.github.io/pull/30)) +- [2020-01-05 Sun] お得度を「点数」ではなく「相対的な数字」と表記 +- [2020-01-05 Sun] Fix Typo (債権 => 債券)。 +- [2020-01-04 Sat] 公開 + + + +--- + +# 結論編 + +## 結論だけ最初に教えてください。資産運用を始めてみたいのですが何をしたらよいのでしょうか? + +以下のことだけをしましょう。これだけで投資効率が 99 点になります。 + +1. 確定拠出年金 (iDeCo または 企業型 DC)を始めます。 +2. NISA でつみたての設定をします。 +3. さらに余裕がある方は、特定口座でつみたての設定をします。 +4. 資産運用を始めた直後や、まとまった資金を一時的に受け取ったときなど、十分な余 + 剰資金(現金)をもっているのであれば、自分のリスク許容度の範囲内で、適切な割 + 合の資産を _一括_ で投資します。詳しくは後述の「アセットアロケーション」を参 + 照してください。 +5. 定期的に(年に 1 回、あるいは数年に 1 回)、アセットアロケーションについて見 + 直しましょう。 + +1, 2, 3 は一度設定するだけです。 4 は資産運用を始めるとき、あるいは、まとまった +資金を贈与されたときなど一時的に行うものです。 + +この方針をちゃんと守っているならば資産運用に使用する時間は 1 年に 30 分もないは +ずです。 + +1, 2, 3, 4 において購入するべきものはすべて同じものでかまいません。以下の条件: + +1. コスト(信託報酬)の安い +2. 時価総額加重平均を採用したインデックスファンド (S&P500、全米、全世界など) + +を満たすものにしましょう。これらの条件を満たすものは: + +- eMAXIS Slim 全世界株式 (オール・カントリー)(通称: オルカン) +- eMAXIS Slim 米国株式 (S&P500) +- SBI・V・S&P500 インデックスファンド + +などです。これらはネット証券 (SBI 証券、楽天証券など)で購入します。 + + + +NISA は「つみたて投資枠(上限: 年間: 120 万円)」と「成長投資枠(上限: 年間240 万 +円)」に分かれていますがその名前に惑わされて別のものを買う必要はありません。この +記事内では両者を特に区別しません。単に年間の上限枠が 360 万円である非課税枠とし +て扱います。 + + + +具体的な手順(証券会社の口座の開設や設定方法など)はこの記事では説明しません。こ +の記事では方針とその考え方のみ述べます。 + +## してはいけないことは何でしょうか? + +資産運用において大事なのは「余計なことをしない」ということです。例えば、以下のこ +とはしてはいけません。 + +- 「マーケットタイミング」を計る + + 例) + + - 「今か株価が高値だから、現金をためておこう。暴落したら一挙に購入しよう」 + - 「暴落の噂があるからいまのうちに売却して利益確定しておこう」 + +- 時価総額加重平均インデックスではないファンドや個別株を購入する + + 例) + + - XXX 社の株を買う。「AI 関連ファンド」等を購入する。高配当株を購入する。 + +- 怪しいもの・実績がないものに手をだす + + 例) + + - _記事の公開にあたってこの部分は削除しました。具体的に書くと怒られそうなので + ...察してください。_ + +これらはすべて投資効率を下げる行為です。99 点から点数がどんどん下がっていくと考 +えてください。そもそもこれらは「選択・判断」しないといけないため、自分の時間がと +られてしまいます。 + +もし、自分が: + +- 1 年に 30 分以上資産運用に時間を使っている +- あるいは、1 年に 1 回以上最初の方針にはなかった「投資判断」を行っている + +のであれば、それは最初の方針を曲げてしまっている、何かが間違っている証拠です。長 +期的にはその「ツケ」は必ず払わされるでしょう。 + +幸いなことに、われわれは「普通の人」であり資産運用は趣味でもエンタメでもありませ +ん。そのことが逆にアドバンテージになると考えるとよいでしょう。 + +## 「1. iDeCo」「2. 新 NISA 」「3. 特定口座」 のうちどれを優先するべきですか? + +それぞれのお得度をあえて「雑」に相対的な数字で表現するならば: + +| 枠 | お得度 | +| --------------------------------------------------- | ------ | +| 1. iDeCo (上限あり) | 140 | +| 2. 新 NISA (上限: 毎年 360 万円, 合計 1,800 万円) | 120 | +| 3. 特定口座でインデックスファンド | 100 | + +と考えましょう。お得度の高いものから順番に使いきるようにしましょう。 + +ただし、注意点として iDeCo については 「資金拘束」、すなわち 60 歳 (または 65 +歳) になるまでは引き出すことができないという制限があります。 iDeCo についてはこ +の条件がクリアできる範囲で拠出しましょう。 + + + +iDeCo のお得度は実際にはさまざまな条件によって異なってきます。あまり細かいことは +ここでは述べませんが、iDeCo の最大のメリットは所得控除です。所得にかかる税金が軽 +減されるということは、その分資産運用の額を増やせる・ その結果増やした資産運用額 +が複利をさらに生み出します。運用期間や種々の条件にもよりますが、この効果は一般的 +には NISA の非課税効果(利益の 20%)よりも大きいです。 + +iDeCo は受取時に税金がかかりますが、ほとんどのケースにおいては退職金控除等の効果 +が大きく支払う税金は比較して安くなるでしょう。 + +仮に支払う税金額が同じになるとした場合でも iDeCo を利用した場合は「税金の支払い +を未来に先送りすることができる」と考えることができ、それは先程述べたような効果を +生みます。 + +「今 1 万円を支払う」のと「30 年後に1万円を支払う」のでは、後者のほうが「お得」 +です。 + + + +#### 例 + +A さんは年間 50 万円投資に資金を回せます。A さんは iDeCo は使用しないとします。 + +このとき: + +- 「今年は新 NISA で 20 万円分、特定口座で 30 万円分、購入しました。」 + +よりは + +- 「今年は新 NISA で 50 万円分、購入しました。」 + +のほうがよいです。なぜなら、前者は NISA の枠を使い切っていないのに、特定口座で商 +品を購入しているからです。後者のようにまずはNISA の枠を使い切ることを目指しま +しょう。 + +## アセットアロケーション: 資産のうちどれだけの割合をリスク資産に回せばよいのでしょうか? + +アセットアロケーションとは、現金も含めた総資産をどの資産(アセット)にどれだけ配 +分(アロケーション)するかを決定することです。アセットアロケーションを決めるのは +主に次の 2 段階で行います。 + +1. 投資効率(いわゆるシャープレシオ)のもっともよいリスク資産を選択する。 +2. 個人のリスク許容度(あるいはリスク選好)に応じて、安全資産である現金と 1 で選 + んだリスク資産の割合を決定する。 + +幸いなことに今は 1 については悩む必要はありません。先ほど示した時価総額加重平均 +にもとづくインデックスファンド 1 択です。商品によって多少のコスト差はありますが +もはや誤差の範囲内といってよいでしょう。理論的には「誰でも同じ選択」になります。 +つまり、各個人の資産額や年齢、運用期間、リスク許容度といった個人の属性によって購 +入するべき商品の種類を変える必要はありません。 + +個人によって変わるのは、2 の部分です。すわなち「リスク資産をどれだけ買うか」の部 +分です。 + + + +リスク許容度とは投資において損失をどれだけ受け入れられるかという度合いのことで +す。例えば、現在の資産が1,000万円、1年後にどうしても900万円必要になるという場 +合、1,000万円のうち500万円を投資に回すのは明らかにリスク許容度を超えています。株 +価が20%以上下落して100万円以上の損失が生じる可能性は十分にあるからです。 + + + +### 例: アセットアロケーション + +資産の合計が 1,000 万円だとした場合、リスク許容度に応じたアセットアロケーション +の目安は以下のようになります。 + +| リスク許容度 | 現金:リスク資産の割合 | 現金 | リスク資産 | 全体のリターン | 全体のリスク | +| -------------------------------------------------- | --------------------- | ------------------------------- | ---------- | -------------- | ------------ | +| 資産が 50%減る (= 500 万円になる) ことを許容できる | 0:100 | 0 万円 (必要最小限なものは除く) | 1,000 万円 | 5% | 10% | +| 資産が 25%減る (= 750 万円になる) ことを許容できる | 50:50 | 500 万円 | 500 万円 | 2.5% | 5% | +| 資産が 10%減る (= 900 万円になる) ことを許容できる | 80:20 | 800 万円 | 200 万円 | 1% | 2% | +| 1 円たりとも損するのは絶対に許せない | 100:0 | 1,000 万円 | 0 万円 | (ほぼ) 0% | 0% | + +- リスク資産とは (iDeCo + NISA + 特定口座) の合計です。 +- リスク資産の最大損失額として、ここでは-50%と仮定しています。これは相当、安全側 + に倒した「悲観的」な見積もりです。一般にはもう少し「楽観的」な数字、-33%、ある + いはリスクの 3 倍程度を用いますが、慣れるまでは-50%、つまりおよそ半分になりう + ると見ておけば十分でしょう。ただし、必要以上に保守的にならないでください。 +- ここでは説明のための仮の値としてリスク資産のリターンを 5%、リスクを10%としてい + ます。リスクとは「リターンの不確実性」のことを表し、投資の世界ではそれを数字で + 表すために「リターンの標準偏差」を用いることが一般的です。わかりやすくいうと + 「リターンのブレ」です。リターンをリスクで割った値をシャープレシオといいます。 + 詳しくは理論編で解説します。 +- ここでは現金(無リスク資産)のリターンはゼロとしています。現金とリスク資産の間 + には相関関係はないので、現金比率をいくつにしようと、アセットアロケーション全体 + のシャープレシオはリスク資産のシャープレシオと一致します。ただし現金 100% のア + セットアロケーションはシャープレシオを計算できないので除きます。つまりどのア + セットアロケーションも投資効率は同じであり、どれが正解でどれが間違いというもの + ではないです。少なくともシャープレシオの観点ではこの間に優劣はありません。 +- アセットアロケーションによって、全体のリスクとリターンが決まるため、資産運用の + パフォーマンスは結局のところ「アセットアロケーション x 資産運用の年数」でほぼ + 決定されます。 + + + +資産運用とは、結局のところ、現金とリスク資産の比率を適切な値に調整しましょうとい +うことです。 + +イメージとしては、このようなスライダー: + +現金 リスク資産 + +のバーを本人のリスク許容度から大きくずれたりしないように調整するというのが資産運 +用です。 + +いわゆる「つみたて」も、あくまでこのスライダーのバーが時間の経過とともにいつのま +にか大きくずれている、現金の割合が多くなっていく、のを防ぐためのもの、と考えれば +よいでしょう。 + + + + + +インデックスファンドは流動性が高い資産です。現金とリスク資産は、必要に応じていつ +でもすぐに(ほぼ数日で)相互に変換可能です。つまり、現金が予想以上に必要になった +ときは、リスク資産の一部を売却すればよいだけの話です。 + +資産運用とは決して「節約しよう!」という意味ではないです。「節約」と「運用」は分 +けて考えるべきです。例えばフルインベストメントしている人が、予想以上に現金が必要 +になったときは、必要なぶんだけリスク資産の一部を売却すればよいです。そこは躊躇す +る必要はまったくありません。必要なときはどんどんお金は使いましょう。資産運用と +は、あくまで資産のうち「適切な割合」をリスク資産にしておくということです。 + + + +参考) +[Two-Fund Separation Theorem and Applications](https://www.coursera.org/lecture/investments-fundamentals/two-fund-separation-theorem-and-applications-YCWAX), +[Two-fund separation - Individual decision](https://www.coursera.org/lecture/portfolio-risk-management/two-fund-separation-individual-decision-3r6LZ) + +#### 例: A さんの場合 + +A さんは社会人 8 年目です。これまで資産運用の経験はありません。現在、銀行口座に +400 万円の資産があります。 + +現金 リスク資 +産 + +1. A さんは、現在の資産 400 万円のうち 4 分の 1 (= 100 万円) 資産が減っても、十 + 分許容できると考えました。つまり、アセットアロケーションは 現金:リスク資産 = + 50:50 にすると決めました。 +2. A さんは、現在 400 万円ある現金のうち、50%である 200 万円を一括で投資しまし + た。すべて NISA の枠を使用しました。 + +現金 リスク資 +産 + +A さんの今の手取りは 40 万円です。A さんは生活費として 24 万円使用します。つまり +毎月 16 万円貯金できます。 + +1. A さんは毎月貯金していた 16 万円のうち、50%である 8 万円を資産運用に回すこと + にしました。 +2. A さんは iDeCo をはじめました。月々の拠出額は最大の 23,000 円です。 +3. A さんは NISA で 毎月 57,000 円 のつみたてを設定しました。先程一括で投資した + 分とあわせても 年間の合計は 200 + 5.7 x 12 = 268 万円であり、これは NISA の年 + 間の枠の上限 360 万円に収まります。あたりの枠の上限 360 万円に収まります。 + +A さんがやるべきことはこれで終了です。あとは、定期的にアセットアロケーションを見 +直すだけでよいでしょう。 + +#### 例: B さんの場合 + +B さんは社会人 2 年目です。これまで資産運用の経験はありません。現在、銀行口座に +100 万円の資産があります。 + +現金 リスク資 +産 + +1. B さんは、現在の資産 100 万円のうち 半分(= 50 万円) 資産が減っても、十分許容 + できると考えました。つまり、アセットアロケーションは 現金:リスク資産 = 0:100 + にすると決めました。いわゆるフルインベストメントです。 +2. B さんは、現在 100 万円ある現金のうち、最低限残しておく部分は除いて、ほぼすべ + てを一括で投資しました。すべて NISA の枠を使用しました。 + +現金 リスク資産 + +B さんの今の手取りは 20 万円です。B さんは生活費として 15 万円使用します。つまり +毎月 5 万円貯金できます。 + +1. B さんは iDeCo をはじめました。月々の拠出額は最大の 23,000 円です。 +2. B さんは NISA で 毎月 27,000 円 のつみたてを設定しました。 + +B さんがやるべきことはこれで終了です。あとは、定期的にアセットアロケーションを見 +直すだけでよいでしょう。 + +#### 例: C さんの場合 + +C さんはすでにリタイアしており年金で生活しています。C さんの資産は現在 1,500 万 +です。 今まで投資とは縁のなかった C さんですが、将来の生活にやや不安を感じてお +り、NISA の話を聞いたのがきっかけに投資に興味を持ちました。何事も遅すぎるという +ことはない、やらないよりはましだと思い、 C さんは投資を始めることにしました。 + +現金 リスク +資産 + +1. C さんは iDeCo はできませんので、NISA をはじめることにしました。 +2. C さんは年金があるため 1500 万円のうち半分を投資にまわしても当面の生活に支障 + はないと考えました。 +3. C さんは初年度に NISA に上限 360 万円を一括で投資しました。 +4. C さんは残りの投資可能額、約 400 万円を来年の NISA の枠で投資する予定です。そ + れまでの間 400 万円は特定口座で運用することにしました。来年、様子を見て、特定 + 口座から NISA に移す予定です。 + +現金 リスク資 +産 + +C さんがやるべきことはこれで終了です。来年以降、C さんは必要に応じて NISA の枠を +最優先で使用すればよいでしょう。いずれ特定口座は使用しなくなり、リスク資産はすべ +てを NISA で運用することになるでしょう。 + + + +C さんのようなケースに対しては「投資を始めるには遅すぎる」「もう手遅れだ」という +意見が通常は多く見られると思います。しかし、そのような意見は投資に興味をもち投資 +を始めたいと思っている C さんにとって余計なお世話でしょう。資産運用の期間は長け +れば長いほどよいですが、「40 年以上資産運用しないと意味がない」というものではあ +りません。何もしないよりは 1 年運用したほうがよい、1 年よりは 2 年のほうがよ +い、2 年よりは 3 年のほうがよい、というだけの話です。投資を始めるにあたって年齢 +や資産額を気にする必要はありません。 + + + +## 本当にやるべきことはたったそれだけでいいのですか?早い話、一度設定したら何もしなくてよいということでしょうか? + +はい。一度設定したあとは基本放ったらかしにしましょう。資産運用に時間をかける必要 +はありません。一度設定したあとは、定期的に、あるいは何かライフイベントがあったと +きに、つみたて額の変更、あるいはアセットアロケーションを見直せばよいでしょう。 + +これで結論編はおわりです。この通りにきちんと実行できる、あるいはもうすでに実行で +きているという人は、これ以上、この記事を読まなくても大丈夫です。ここから先はある +意味すべて蛇足です。興味がある方は必要に応じて読んでください。 + +--- + +# 理論編 + +先程の結論で示した方針を実行するのは一見簡単そうに思えます。しかし、この世の中に +はその妨げになる以下のような「情報」がたくさんあふれています。 + +- 「今、株価は史上最高値です! PER は過去最高です!暴落は 2 年以内に訪れるでしょ + う!」 +- 「暴落はまだ始まったばかりです。本格的な下げがこれからやってきます。今のうちに + 売却しましょう!」 +- 「今が絶好のチャンス!この株価の上昇を取り逃すと大きな差がでます!今のうちにで + きるだけ仕込んでおきましょう!」 +- 「インデックス投資は短期間で大儲けできません!短期間で大儲けするなら、FX がお + すすめです!」 +- 「仮想通貨で 1 億円儲かりました!」 +- 「XXX 社の株が狙い目です!確実に儲かりますよ!」 +- 「これからは AI の時代です。AI 関連の会社の株を買うのがおすすめです!」 + +我々のような「普通の人」は普通の耐性しか備えていないので、これらの雑音や誘惑に対 +抗できずに、どんどんダークサイドに落ちていくことでしょう。 + +考え方や理論を学ぶ重要性はここにあります。人間の感情を巧みについてくるこれらの情 +報は一見信憑性があるようですが、実際にはほぼ意味がありません。これらの情報に振り +回されるのを防ぐために、知識武装は役に立つことでしょう。 + +「インデックスファンドをひたすら買うだけで 99 点を達成」できるにもかかわらず、多 +くの人が「もっとよい成績をとってやろう」といつの間にか思ってしまい、余計なことを +してしまい、その結果、投資効率が 99 点からどんどん落ちていくのです。 + +## 最適なポートフォリオは市場平均 + +### 基本となる考え方 + +ここでは要点だけ述べます。 + +- 株価はランダムウォークしながらも長期的には右肩上がりだという前提にたちます。 +- インデックスファンドは株式市場をまるごと買う行為です。まるごと買うとは、一切の + バイアス・私見をいれずに、ありのまま時価総額に応じてすべてを保有することです。 + つまり、インデックスファンドをひたすら買うことで、資産運用の成績は、時価総額加 + 重平均・いわゆる「市場平均」とほぼ同じになります。市場平均について詳しくは後述 + します。 +- すべての情報は市場に織り込み済みです。いわゆる市場は効率的であるという前提にた + ちます。完全に効率的かというとそうではないでしょうが、少なくとも個人投資家が継 + 続的に利益を得られるほどの非効率性はないという意味で、十分に効率的と考えるべき + です。 +- すわなち、すべての情報を織り込んだ・市場全体の総意によって決定されている株価は + いつだって「適正価格」です。「今の株価は高値圏」「今の株価は安値圏」「そろそろ + 暴落が来そう」などといった分析・情報はまったく無意味と思いましょう。株価は見る + 必要はありませんし予想する必要もありません。株の買い時・売り時はありません。あ + えて言うなら、365 日 24 時間、いつだって(リスク許容度の範囲内で)「買い時」と + 仮定しましょう。 +- 市場平均に勝とうとすればするほど、余計なコストがかかり長期的には市場平均に負け + ていきます。 +- 長期的に市場平均に勝てる個人投資家はほぼいません。40 年くらいの期間だと、市場 + 平均に勝てる人は 50 人に 1 人くらいはいるかもしれませんが、われわれ「普通の + 人」がその 1 人であると信じる根拠にどこにもないです。 +- つまり、個人投資家が長期でとれる最大の成績は「市場平均」です。 + + + +考え方のコツ: ランダムウォーク + +ランダムウォークについて難しいことを知っておく必要はありませんが、覚えておいたほ +うがよい重要な点としては、株価が将来どうなるかの値動きは、直近の過去の値動きの影 +響を受けないということです。 + +よく見かける + +- 「株価の下落時は買い増しチャンス!」 +- 「積立初期は株価が下落したほうが嬉しい!」 + +などの考えは、「株価が下がると、そのぶんだけ将来上がりやすくなるはず!」という人 +間らしい考えに基づいているのでしょうが、ランダムウォークはそのような動きはしませ +ん。 + +身近な例で言えば、「ルーレットで赤が3回連続で出たから次はそろそろ黒が出るはず」 +と考えるのは間違っているのと同様です。過去のルーレットでどのような目がでていたか +は、次にでる目に影響を与えません。 + +過去に下がっていようが上がっていようが、その分上がりやすくなったりあるいは下がり +やすくなったりはしません。その逆もしかりです。「ルーレットで赤が3回連続で出たか +ら次も赤が出るだろう」と考えるのもやはり同様に間違いです + +人間はランダムな動きの中にも法則性を見つけ出そうとする本能がありますが、その結果 +普通の人が見つけることができるのはいわゆる「見せかけの法則」です。過去にそのよう +な傾向があったからといって将来もそのような傾向があるかどうかは専門家でさえも容易 +に判断できることではありません。過去に我々よりも遥かに賢い人たちが法則を見つけよ +うとしましたが、結局のところ「これは我々の手に負える問題ではない。ランダムウォー +クと見なさざるを得ない」となっています。 + +これはランダムウォークについての考え方のコツであり、正確な説明ではありません。興 +味のある方は後述の幾何ブラウン運動等を参照してください。 + + + +参考) [敗者のゲーム](https://www.amazon.co.jp/dp/B079GRS1Z7/) + +### 市場平均ってなんか言葉が弱そうなんですけど。ほんとに市場平均を目指すだけでいいんですか?もっと上を目指さなくてよいのでしょうか? + +はい。 + +- 株式市場の取引のほとんどは「機関投資家」というプロ中のプロにより行われていま + す。 +- 市場平均というのは、プロ中のプロである巨大な専門機関のトップクラスたちの成績の + 平均ということです。 +- われわれが株を買うときその裏で株を売っている相手は巨大な専門機関のトップクラス + であり、われわれが株を売るときその裏で株を買っている相手もプロです。 +- 市場平均に勝とうというのは、われわれ「普通の人」が、情報も頭脳も分析力もすべて + において優れているプロ中のプロに勝とうとする行為です。 +- ちなみに機関投資家自身も市場平均には勝てません。なぜなら、市場平均というのは彼 + ら自身だからです。自分は自分には勝てません。 +- そのような知識も経験も分析力も圧倒的に劣るわれわれ「普通の人」が、プロ中のプロ + である彼らの成績の平均をとる方法があります。それが「株式市場をまるごと」買うと + いうことです。インデックスファンドはそれを可能にします。 + +つまり、インデックス投資とは、プロ中のプロがだした結果の平均である「市場平均」 +を、なんの努力もしない、勉強をしないで(言葉は悪いですが)美味しいところだけいた +だくということです。 + +インデックスファンドをひたすら買うだけで、あなたは「普通の人」ではなく、「プロ中 +のプロの平均」になります。 + +この際、決して「市場平均よりよい成績をとってやろう」と「勝手な行動」をとらないで +ください。その瞬間、魔法がとけて、あなたはただの「普通の人」になってしまいます。 +ただの「普通の人」の投資判断が長期で継続的に市場平均に勝てることはないでしょう。 + +参考) [敗者のゲーム](https://www.amazon.co.jp/dp/B079GRS1Z7/) + + + +考え方のコツ: 市場平均の「平均」とは? + +「市場平均」とは一般には「時価総額加重平均ポートフォリオ」あるいは「その成績」の +ことを意味します。市場のすべての銘柄の株価を時価総額に応じて加重平均したもので +す。ですので、先程のように「市場平均」のことを「投資家の間の平均点」と称するの +は、正確な表現ではなく誤解を招く表現です。実際には「市場平均」は単なる「みんなの +点数を足して人数でわった平均点」ではなくて「株式市場でとれる最も理想的な平均点」 +です。「市場平均」を取り続けることは長期になればなるほど優位に働きます。 + +「市場平均」の「平均」という言葉のイメージから、「たんなる平均点でしょ?1 年 2組 +の数学のテストの平均点のようなものでしょ?それなら平均点を上回る人は半分くらいい +るってことでしょ?」と考えてしまいがちですが、これは「平均」という言葉がもたらす +イメージの罠です。実際には「市場平均」とは「もっとも最適な成績」です。株式にリス +クがある以上、毎年確実に一番の成績をとるわけではないですが「長期的にはクラスで一 +番の成績をとる人」というイメージでとらえたほうが正確です。 + +それでも「市場平均」という言葉を誤解してしまうという自信のない方は、「市場平均」 +という言葉を見かけたら「市場最適」「理論上最適」と置き換えればよいでしょう。 + + + +### どうして時価総額加重平均にもとづくインデックスファンドが良いのでしょうか?なにか理論的な裏付けがあるのでしょうか? + +理論的な裏付けがあります。時価総額加重平均インデックスにもとづくポートフォリオ(= +市場ポートフォリオ: Market Portfolio) がもっとも投資効率がよいポートフォリオ (= +tangency portfolio)と、理論上はされています。 + +理論がどこまでの精度で当てはまるのかはわかりませんが、少なくとも「普通の人」がそ +れを否定して他のポートフォリオを選択する理由はないでしょう。 + +以下は証明にはなっていませんが、直感的に「なんとなく納得」するには、これで十分で +しょう。 + +- 株の需要と供給は一致する +- 最適な組み合わせがあると仮定し、それを A とする +- 個々の投資家は最適な組み合わせである A を選択しようとする + +この場合、市場に存在する各銘柄の時価総額と、全投資家が保有するの株の価値の合計額 +が一致するのは、A が時価総額加重平均である場合のみです。 + +参考) +[Two-fund separation - Market level](https://www.coursera.org/lecture/portfolio-risk-management/two-fund-separation-market-level-Y0Pag), +[Capital market equilibrium - The Capital Asset Pricing Model](https://www.coursera.org/lecture/portfolio-risk-management/capital-market-equilibrium-the-capital-asset-pricing-model-xftSO) + + + +考え方のコツ: シンプルなものがもっとも強い + +理論上もっとも最適な分散が、単純な時価総額加重平均に一致するというのは、ある意味 +驚くべき結果です。投資を趣味にしている人にとっては、それは受け入れがたい結果かも +しれませんが、普通の人は素直にこの事実を利用して素直に受け入れるとよいでしょう。 +最も単純なものがもっともよいというのはよくあることであり美しい結果といえるでしょ +う。 + +今でも多くの人が、市場平均を上回ってやろうと、独自に方法を語っていますが、それら +の人よりも遥かに賢い人たちがもっとも最適な分散方法を長年に渡って理論的に追求した +結果、導き出された結論が「時価総額加重平均が最適」なのです。「巨人の肩の上に」た +ちましょう。 + + + +### さきほどから 99 点といっていますが、その点数はどういう意味でしょうか? + +あるリスクをとった場合、理論上とることのできる最大のリターンを100点とした場合、 +ほぼ満点に近い99点がとれるという意味です。なお細かな手間や最適化を頑張れば理想的 +な100点に近づくことはできますが、99 点を 100 点にするのはほとんどのケースにおい +て割にあいません。「コスパ」が悪いです。 + +ただし99点というのはあくまで「将来の期待リターン」です。将来約束された「確定リ +ターン」でも「過去のリターン」でもありません。投資においてはリスクという不確実 +性・リターンのブレがどうしても排除できません。 + +過去のある特定期間に注目してみてみると、その期間においては市場平均よりも成績がよ +い特定の指数や銘柄の組み合わせは簡単に見つけることができるでしょう。 + + + +考え方のコツ: 観測値と期待値 + +「リターン」という言葉は文脈によって異なる意味で使用されることに注意しましょう。 +投資に関する多くの記事では、特定の商品や特定の指数の過去の結果である「観測リター +ン」を紹介するのは定番です。ですが、普通の人はそれがあたかも将来の「期待リター +ン」であるかのように誤解してしまうでしょう。 + +新規に設定・販売される金融商品の宣伝・広告なども同様です。販売される投資信託は、 +ここ数年の「観測リターン」がよいものが多く、「過去のリターンが高い」ことを語って +います。このような商品が新規に販売されるのは、多くの人は単に「過去のリターン」が +よいものを買ってしまうという習性があるからです。 + +「観測リターン」と将来の「期待リターン」、両者の違いを理解するのは大事です。ここ +ではありがちな先入観を排除するために、以下のようにサイコロを振る単純なゲームで考 +えてみましょう。 + +サイコロが100個あったとします。それぞれのサイコロは個々の銘柄や特定の指数を表し +ているとします。そのうち99個は普通のサイコロです。サイコロを振って出る目の「期待 +値」は 1から6までを足した値である 21 を 6 で割った値、 3.5です。100個のうち1個は +通常のサイコロではなく目が「4・2・3・4・5・6」である市場平均サイコロです。これは +出る目の期待値は4になります。つまり市場平均サイコロは他のどのサイコロよりも、期 +待値・すなわち期待リターンが高いとします。 + +サイコロを1回だけ振って出た目がその銘柄の1年あたりの成績を仮に表しているとしま +しょう。そしてそれぞれの10年あたりの成績を比較してみることにします。つまり100個 +のサイコロを全て10回ずつ振ってみます。そして各サイコロごとの出た目の合計値を比較 +してみましょう。これは投資でいえば過去10年間のトータルリターンを表します。このと +き、市場平均サイコロが100個のうち1位になることは稀です。10回振った合計値が市場平 +均サイコロを上回る通常のサイコロは99個の中から何個か見つかるでしょう。 + +これは、過去の特定の期間を振り返った場合、その期間においては市場平均の成績を上回 +る特定の指数や銘柄の組み合わせが簡単に見つかるのと同様です。 + +ただし「過去の観測リターンがよかった」という理由だけでそのサイコロが「優れたサイ +コロ」だと思い、次に10回振るサイコロとして市場平均サイコロではなくそのサイコロを +選んでしまうのは、投資の世界では思わずやってしまいがちでよく見る光景ではあります +が決して得策ではありません。 + +これは少し専門的に言えば「判断において、未来の情報を過去に混入させてしまう」とい +うミスです。過去から見た場合、未来である現在では、過去から現在までの期間において +もっとも成績がよいサイコロは簡単に知ることができます。ですが、その情報を活かすに +は、未来の情報を持ったままタイムマシンにのって過去に戻る必要があります。我々、普 +通の人は残念ながらのび太くんのように恵まれておらず、ドラえもんが助けてくれるわけ +ではないですので、これは不可能です。 + +観測値から実際の期待値を推測するのは専門家でさえもとても難しい問題です。過去の特 +定期間たまたま成績がよかったサイコロを振るのではなく、市場平均サイコロを振り続け +ましょう。 + + + +## リスクをきちんと理解する + +### リスクって何? + +「リスク」は日常会話でもおなじみの言葉ですが、投資の世界ではリスクは「リターンの +不確実性」のことを表します。定義が曖昧なままでは役にたちませんので「不確実性」を +定量的にあらわすために投資の世界で用いられる指標は「リターン(収益率)の標準偏 +差」です。これもある意味、専門用語ですので、さらにわかりやすくいうと「リターンの +ブレ幅の大きさ」です。 + +リスクはあくまで「リターンのブレ幅の大きさ」であり「株価の変動の大きさ」ではあり +ません。例えば、毎年、安定して5%ずつ株価が上がるならば、株価は変動しますがリター +ンは5%のまま変動しないのでリスクはゼロです。その逆に毎年安定して5%ずつ株価が下が +るならばこの場合もリターンは毎年-5%のまま変動しないのでリスクはゼロです。これは +日常感覚で用いるリスクの感覚とは異なります。 + +投資の世界における「リスク」はきちんと定量的に定義された専門用語・学術用語です。 +しかし、投資に関する記事の多くはリスクをこの学術用語であるリスクではなく、以下の +ように曖昧な意味・「日常会話のノリ」で使用していることがほとんどです。 + +- 「投資をしないことは日本円に100%投資をしているのと同じ!現金はリスクです!」 +- 「全世界株とS&P500を同時に買うとリスク分散になります!」 + +この記事では学問に敬意を払い、特に注釈等がない限りはリスクを「リターン(収益率) +の標準偏差」という正しい意味で使用します。なぜならそれが実際に一番役にたつからで +す。先程のような、不安を煽る目的や偽りの安心感を与えるために"リスク"や"リスク分 +散"という言葉を使用するのは、一見理解しやすいかもしれませんが、実際のところあま +り役にたちません。 + +### 長期で資産運用するのであれば、結果は期待リターン(平均値)に収束していくんだから、リターンのブレであるリスクは気にしなくてよいのでは?リターンだけ追求すればよいのでは? + +いいえ、違います。リスクは資産運用の敵です。リスクは「平均値」(期待リターン)に +は影響は与えませんが、「中央値」(上位 50%の成績)に影響を与えます。 + +これは実際に成績の分布を見るのがわかりやすいでしょう。たとえば、以下のような 投 +資信託A, Bがあるとします。 + +| | リターン | リスク | +| --- | -------- | ------ | +| A | 5% | 5% | +| B | 5% | 20% | + +A、B どちらもリターンは同じ 5%ですが、A の方はリスクが 5%、B の方はリスクが 20% +です。この場合、A, B をそれぞれ 10 年間投資した場合の成績を見てみましょう。 + +リスクはゼロではない、つまりリターンにはブレが生じるため、結果は「リターンの分 +布」として見ることができます。 + + + +考え方のコツ: それは投資?それともギャンブル? + +実際には先程のような商品 A, B が両方同時に存在することは稀です。投資家が全員「賢 +い」なら、全員 A を選択するからです。リターンが増えないのにリスクだけを増やす B +は誰からも選ばれません。 + +よく「それは投資ではないよ。それは投機・あるいはギャンブルだよ」という会話はよく +ありますが、何が「投資」で何が「投機」かの線引きは通常は曖昧でしょう。 + +ですが、この例のように、リターンが増えないのにリスクだけを増やす行為は一般的には +「相対的に投機あるいはギャンブル」と呼んでよいでしょう。たとえリターンがプラスで +もです。 + +たとえば、保険会社が保険の加入者に変わってリスクを負うのは加入者から受け取る保険 +料というリターンがあるからです。もし保険料を受け取れないあるいはリスクに見合った +保険料を受け取れないのなら、保険を引き受けてリスクだけを増やす、そのような慈善事 +業を営む保険会社は存在しません。保険会社はギャンブルはしません。 + +もちろん、保険会社と異なり現実の個人投資家は全員「賢い」わけではないので、Bが買 +われることもあるでしょう。 + + + +#### リターンの分布 (x 軸: 成績, y 軸: 確率密度) + +A) リターン 5%, リスク 5% の場合: +(html) + +![return-5-risk-5-pdf](/2020/investing/return-5-risk-5-pdf.png) + +B) リターン 5%, リスク 20% の場合: +(html) + +![return-5-risk-20-pdf](/2020/investing/return-5-risk-20-pdf.png) + +- A と B を比較した場合、成績の分布の形はずいぶん異なります。例えば10 年後の成績 + の分布を比較した場合、B のほうが A よりも分布は「左側に集中」していますが、い + ずれも期待リターンは同じになります。たとえば 10 年後の期待リターンはどちらも + 1.629 (= $ 1.05^{10} $) です。 +- 一般に投資の成績の分布は、左に偏った、右側に長く伸びるロングテールになります。 + リスクが高ければ高いほどその傾向がつよくなります。 +- リスクが高ければ高いほど、多くの人が左側に偏ってしまう・つまり成績の悪い人が多 + くなる一方、ごく一部の成績のいい「ラッキー」な人は分布上ではいくらでも右側に伸 + び続けます。 +- 期待リターンはそれらの一部の「とてもいい成績をとっている人」の影響が強くなりま + す。実際にはそのような「大儲け」できる人はほとんどいないにもかかわらず、です。 +- リスクがある限り、期待リターンを達成できる人は常に 5 割を下回ります。リスクが + 大きくなれば大きくなるほど、期待リターンを達成できる確率は小さくなります。中央 + 値(上位 50%の人の成績)は期待リターンを常に下回ります。 + +#### 期待リターン(mean), 中央値(median; μ)、中央値 ± 標準偏差 (x1, x2) のチャート (x 軸: 年数, y 軸: 成績 (対数)) + +次に10年間保有した場合、成績が 上位2.3%、16%、50%(中央値)、84%、97% の人がど +うなるのか、A,B をそれぞれについて見てみましょう。 + +A) リターン 5%, リスク 5% の場合: +(html) + +![return-5-risk-5-var](/2020/investing/return-5-risk-5-var.png) + +B) リターン 5%, リスク 20% の場合: +(html) + +![return-5-risk-20-var](/2020/investing/return-5-risk-20-var.png) + +| percentile | A (risk: 5%) | B (risk: 20%) | +| ------------------- | ------------ | ------------- | +| μ + 2σ (97%) | 2.176 | 4.498 | +| μ + σ (84%) | 1.874 | 2.476 | +| mean (期待リターン) | 1.629 | 1.629 | +| 中央値: μ (50%) | 1.611 | 1.363 | +| μ - σ (16%) | 1.386 | 0.750 | +| μ - 2σ (2.3%) | 1.192 | 0.413 | + +10 年後の中央値は、A の場合 1.611, B の場合 1.363 です。リスクが大きくなればなる +ほど、期待リターン(平均値)と中央値の隔離は大きくなります。 + +成績が下位から2.3%の人を比較した場合、A は成績が1.192、すわなち 19%ほどのリター +ンがでていますが、B の場合は成績が 0.413、すわなち資産は半分以下になっています。 + +期待リターンは一部の「ラッキー」な人の影響を強く受けてしまうので、期待リターンの +みを見るのはやめましょう。それはあまり意味がありません。極端なことをいえば、リス +クを増やすことで、分布グラフを右に伸ばすことでいくらでも可能であり、その一方、左 +側はゼロ以下には伸びません。そのため、リスクを増やすことで期待リターンを _見かけ +上_ いくらでも増やすことができてしまいます。レバレッジをかければかけるほどリター +ンが高くなります。 + +期待リターンよりは、むしろ中央値のほうが「信頼」できます。中央値はリターンとリス +クの両方の影響を受けます。中央値は、リターンが大きくなればなるほど大きく、リスク +が大きくなればなるほど小さくなります。 + +資産運用においては、リターンが同じであれば、リスクが小さければ小さいほどよいで +す。リターンをリスクで割った値、いわゆる「効率」がもっともよいのは、さきほど述べ +たように、理論上、時価総額加重平均インデックスです。「時価総額加重平均に基づくイ +ンデックスファンドだけ買っておけばよい」というのは、決して手抜きというわけではな +く、それが最も投資効率を高めるからです。 + + + +考え方のコツ: 平均値はあてになる? + +平均値は必ずしも意味がないというわけではありませんが、平均値があまりあてにならな +い有名な例として + +「ワシントン州の独身男性の平均年収が急に500万円ほど増えた」 + +というエピソードがあります。これを聞いて + +「独身男性はワシントン州で働いたほうがお得なのでは!」 + +と考えてしまうかもしれません。ですが、平均年収が急に増えた本当の理由は + +「ビル・ゲイツが離婚したから」 + +だったわけです。これは、平均値があてにならない、むしろビル・ゲイツの離婚の影響を +受けない中央値のほうがあてになる例です。 + + + + + +考え方のコツ: 投資効率(シャープレシオ) + +どうして投資効率として「リターンをリスクで割る (= return / risk) 値を採用する +の? リターンをリスクで引く (= return - risk)、あるいは (return / (risk)^2) とか +別の計算式じゃないのはどうして?」と 一部の人は疑問に思うかもしれませんが、リ +ターンをリスクで割るのは、決して適当な式というわけではなく、ちゃんと理論的に意味 +がある式です。詳しくは省略します。 + + + + + +以下は興味のある人向けです。とばして読んでも構いません。 + +これらのチャートは、株価は幾何ブラウン運動に従い、その変動は対数正規分布になると +いう標準的なモデルに基づいて描きました。 + +詳細は省きますが、中央値について要点だけここで述べておきますと、リターンを `m` +(1.0 ベース)、リスクを `s` とした場合、以下の `μ` の値: + +$$ \mu = \ln m - \ln ( (s/m)^2 + 1) / 2 $$ + +が中央値のよさを表すと考えればよいでしょう。この `μ` は大きれば大きいほどよいで +す。 + +例: リターン 5%、リスク 5% の場合: + +$$ \mu = \ln 1.05 - \ln ( (0.05/1.05)^2 + 1) / 2 \simeq 0.048 $$ + +例: リターン 5%、リスク 20% の場合: + +$$ \mu = \ln 1.05 - \ln ( (0.20/1.05)^2 + 1) / 2 \simeq 0.031 $$ + +- `μ` がプラスであれば、資産運用の年数がたつにつれて、中央値は増加していきます。 +- `μ` がマイナスであれば、資産運用の年数がたつにつれて、中央値は減少していきます + (0 に近づいていきます)。 + +リターンが プラス (=> `m` が 1.0 より大きい)であっても、リスクが大きい場合 +は、`μ` がマイナスになりえます。これは中央値の観点ではどんどん損する「マイナスサ +ム」のゲームと考えるべきであり、そのようなゲームには決して参加してはいけません。 + + + +参考) +[Lognormal property of stock prices assumed by Black-Scholes (FRM T4-10)](https://www.youtube.com/watch?v=K6SMfAnrIMg), +[Why Lognormal Distribution is Used to Describe Stock Prices](https://financetrain.com/why-lognormal-distribution-is-used-to-describe-stock-prices/) + +### 長期投資ではリスクは減るってききました?本当ですか? + +「長期投資をすることでリスクを減らせる!」という説明はよく見かけますが、残念なが +らそのような事実はありません。事実は逆で「成績のブレ幅」は時間とともにどんどん拡 +大していきます。 + +最初に事実をまとめておきましょう。 + +- どんなに個人が長く投資していしようと、「商品の各年における一年あたりのリスク」 + $ \sigma $ には何の影響もありません。それは個人の投資期間とは一切関係ありませ + ん。 +- 「商品を n 年間保有するとして、その n 年間における成績のブレ・標準偏差」 を $ + \sigma _ n $ とした場合、これは $ \sqrt{n} \sigma $ になります。つまり投資期間 + が長くなればなるほど、n が大きくなればなるほど、 $ \sigma _ n $は減るのではな + く増えていきます。これは前述の図の「1 年目の 成績の分布」と「10 年目の成績の分 + 布」からも明らかでしょう。 + +つまり「長期投資しても成績が一定の値に収束するわけではなくて、むしろ成績のブレは +どんどん広がっていく」が正しいです。 + + + +考え方のコツ: 一年あたりのリスク? + +「n 年での リスク $ \sigma \_ n $ が $ \sqrt{n} \sigma $ になるということは、そ +れを n で割ると $ \sigma / \sqrt{n} $ になるので、一年あたりのリスクは $ \sigma +$ よりも小さくなるのでは!」と思わず考えてしまいがちですが、「n 年でのリスクを n +で割るという行為」は統計的には何の意味もない操作です。それで 「一年あたりのリス +ク」が計算できるわけではなく、「一年あたりのリスク」は $ \sigma $ のままです。 +「標準偏差を期間で割った結果得られる数字」はもはや「標準偏差」を意味しておらず +「統計的には何の意味もない数字」であることに注意してください。 + + + +「でも投資期間は長くなるほど、_年次リターン_ のぶれは小さくなると聞きました!」 +と不思議に思った人もいるかもしれません。例えば、以下のような説明です。 + +- 1 年間投資したときの幾何平均リターンのブレ: -35.0% から +60.0% までの間に収ま + る +- 30 年間投資したときの幾何平均リターンのブレ: +2.5% から +10.0% までの間に収ま + る + +こうして見ると一見「幾何平均リターン」は収束しているように見えます。しかし、これ +に基づき実際の「結果リターン」を計算してみると + +1 年後: + +- $ 0.65 ^ {1} = 0.65 $ +- $ 1.60 ^ {1} = 1.60 $ + +30 年後: + +- $ 1.025 ^ {30} = 2.09 $ +- $ 1.10 ^ {30} = 17.45 $ + +であり、1 年間では最大で 2.5 倍の差だったものが、30 年間では 最大で 8.3 倍の差が +つく結果になる、つまり「ブレが広がっている」という先程と同じ事実を示しています。 + +### 長期投資をしてもリスクは減らないことは理解できました。でも長期投資すると元本割れリスクは減りますよね?! + +「でも長期投資をすると元本割れリスクは減りますよね?!」と不思議に思ったかもしれ +ませんが、これもやはり「リスク」を違う意味で使用していることから起きています。 + +きっと質問で聞きたかったことは「元本割れ標準偏差(?)」ではなく「元本割れする確 +率」でしょう。 + +もとの商品の性質にもよりますが、よい商品であるならば、一般には「長期投資すると元 +本割れする確率を減らせます」は正しいです。 + +先程の図、リターン 5%, リスク 5% の場合を、見てみましょう。年数とともに 成績が +1.0 を下回る確率は減ることがわかります。 + +![return-5-risk-5-pdf](/2020/investing/return-5-risk-5-pdf.png) + +一方、リターン 5%, リスク 20% の場合は、そうとはなっていないことがわかります。10 +年たっても、1.0 を下回る確率は高いままであることがわかります。 + +![return-5-risk-20-pdf](/2020/investing/return-5-risk-20-pdf.png) + +つまり「長期投資をして元本割れする確率は減らしたい」のであれば + +「現金 100%にしましょう。元本割れする確率は 0%です」 + +...というのは冗談のようで本当ですが、実際はリターンも得るのが資産運用の目的です +ので「良質な商品つまりもっともシャープレシオの高い商品であるインデックスファンド +と現金でアセットアロケーションを組みましょう。」が「長期投資をして元本割れする確 +率を減らす方法」の正解となります。 + +### インデックスファンドは内部では海外の株式に投資していますが、為替リスクはどうなんでしょうか? + +為替リスクについては「為替リスクがない」あるいは「為替リスクがある」とゼロ・イチ +で考えるのではなく、「それがどれだけ全体のリスクに影響するか?」と定量的に考える +ことが大切です。 + +例として、S&P500 のように内部ではドル建ての商品に日本円で投資する場合、トータル +のリスクはどのようになるか考えてみましょう。 + +仮に + +- S&P500 インデックスのリスクが仮に 20% (実際はこんなに高くありません) +- ドル円の為替リスクが 10% (これも仮の値です) +- S&P500 インデックスとドル円の変動の間に相関がない + +とした場合、ドル円の為替リスクは全体のリスクにどのように影響するでしょうか? + +この場合はトータルのリスクは 10% + 20% = 30% と単純に足した値にになるのではな +く、22.4% になります。 + + +$$ \sigma ^ 2 = \sigma_{sp500} ^ 2 + \sigma_{currency} ^ 2 + 2 \rho \sigma_{sp500} \sigma_{currency} $$ + +$$ = 0.2 ^ 2 + 0.1 ^ 2 + 2 \* 0 \* 0.2 \* 0.1 = 0.05 $$ + +$$ \sigma = \sqrt {0.05} = 0.224 (22.4 \\% ) $$ + +つまり為替リスクが 10%だからといって、そのまま 10% リスクが増えるわけではなく増 +加分は 2.4 % です。そのため内部がドル建ての商品に投資するときに、必要以上に為替 +リスクを恐れる必要はありません。 + +参考) +[Currency risk - Risk](https://www.coursera.org/lecture/portfolio-risk-management/currency-risk-risk-ZS5ly) + + + +考え方のコツ: 為替リスク + +結論編に述べた「リスク資産の最大損失額として、ここでは-50%と仮定しています。」を +覚えているでしょうか?この最大損失額は「為替リスクを考慮した後の結果」と考えま +しょう。 + +株価と同じく為替も「将来が読めない」以上、結局のところ予想しようとしても無駄で +す。つまり + +- 「今は円安だから、投資は控えたほうがいい」 +- 「今は円高だから、今のうちに売却したほうがいい」 + +などは典型的な「余計なことです」。そもそも為替が読めるのであれば、FX で大儲けで +きるでしょう。なお FX のリターンは理論的にはゼロ、コストを考慮するとマイナスと考 +えるのが妥当です。 + +もちろん、国内株のインデックスに投資すれば表面上は為替リスクは無くせますがそれ以 +外に為替リスクを「無料」で避ける方法はありません。国外の広い市場に投資する以上、 +それは避けられないことです。大切なことは「為替を読もう」としないことです。 + + + + + +考え方のコツ: リスクはどこまで減らせる? + +理論上、リスクをゼロにすることはできません。このどうしても消去できない、どんなに +理想的な分散をしても消すことができない・市場そのものが抱えるリスクはシステマチッ +ク・リスクと呼ばれています。一方、消去できるリスクのことはアンシステマチッック・ +リスクと言われています。アンシステマチッック・リスクはリターンを生み出さない、と +るだけ無駄なリスクです。余計なことをすればするほど、このアンシステマチッック・リ +スクは増加します。 + + + +### さきほどは最大損失額を 50%としていましたが、インデックスファンドの価格がゼロになることはないのでしょうか?とても心配です。 + +インデックスファンドの価格がゼロになるとすれば、それは資本主義が崩壊、貨幣経済も +おそらく崩壊、現金もおそらく意味がなくなっている世界です。いわゆる、北斗の拳のよ +うな +[ヒャッハー](https://www.google.com/search?q=%E3%83%92%E3%83%A3%E3%83%83%E3%83%8F%E3%83%BC&tbm=isch) +な世界、物々交換な世界になっているでしょう。 + +そのような事態を心配するのであれば、むしろ北斗神拳を今のうちから身に着けてそのよ +うな事態に備えておくべきです。 + +# 余計なことをしない + +## 余計なものを買わない / トービンの分離定理を理解する + +### 私はインデックスよりも大きなリターンがほしいからインデックスに加えて個別株にも手を出しています。いけないでしょうか? + +投資効率の観点では、個別株は「リターンのブレ」が大きくなる、すなわちリスクが大き +くなる要因であり、投資効率が下がります。資産運用が趣味ではない普通の人が、時間を +つかってまで個別株に手を出す必要性はありません。 + +「言葉で説明されてもわかりません!」という方、では、先程の例で使用した同じリター +ンでリスクが異なる2つの商品 + +- A (risk: 5%) +- B (risk: 20%) + +について、10 年後ではなく 40 年後の成績の分布を比較してみましょう。 + +![compare](/2020/investing/compare.png) + +これは極端な例ですが、これを見てどちらが「個別株」でどちらが「インデックス」に相 +当するのかわかりますか?多くの人は + +「個別株はリターンが大きいはず!分布のピークが右側にある・リターンが大きい方が個 +別株でしょ!」 + +と思った方、残念ながら間違いです。実際はその逆です。分布のピークが右側にあるほう +が「インデックス」に相当します。 + +インデックスが最適化するのは、シャープレシオ(= リターン/リスク)です。リターンで +もリスクでもありません。 + +個別株が含まれるアセットアロケーションから個別株を除いて、その分インデックスの割 +合をより多くすることによって、元のアセットアロケーションよりも一方的に有利なア +セットアロケーションをつくることが可能です。 + +結論編で述べたアセットアロケーションでは、「現金」と「シャープレシオが最適の商 +品」の2つだけを組み合わせて、アセットアロケーションを構成しています。その一番の +理由は「これが楽だから」ではなく「この 2 つだけでどのようなリスク許容度であろう +と、同じリスクのなかでもっともリターンが高いアセットアロケーション」を構成できる +からです。別の言い方をすると同じリターンでもっともリスクが低いとも言えます。 + +この定理には名前がついています。トービンの分離定理といいます。 + + + +「赤 (Red)、緑 (Green)、青 (Blue)」が「光の三原色」であり、この3色を混ざること +によってどんな色もつくりだせるのと同じように、「現金」と「インデックスファンド」 +は「アセットアロケーションの二原色」です。この2つを混ぜることによって、どんなア +セットアロケーションをもつくることが可能です。そしてこの2色から成り立つアセット +アロケーションは、ほかの「色」を混ぜてしまったアセットアロケーションよりも「同じ +リスクでリターンが高く」なります。 + + + +#### 例 + +以下のような2つの商品 A (インデックス)、B (ある個別株) があったとします。 + +- A (インデックス) は最もシャープレシオがよい商品と仮定します。 +- B (個別株) は A よりもハイリスク・ハイリターンですが、シャープレシオは A に劣 + ります (A: 0.5 > B: 0.45)。 + +| | リターン | リスク | シャープレシオ (= リターン/リスク) | +| --------------------- | -------- | ------ | ---------------------------------- | +| 商品 A (インデックス) | 5% | 10% | 0.5 | +| 商品 B (個別株) | 10% | 22% | 0.45 | + +このとき、ある個人投資家は: + +「私はこれまで現金とインデックス資産の比率は `50:50` にしていましたが、もっとリ +スクをとってリターンがほしいです!」 + +となったとしましょう。 + +このとき、やるべきことは「インデックスの代わりにリターンの高い個別株を混ぜる」の +でなく「インデックス資産の割合を増やす」のが正解です。 + +例として、前者と後者のアセットアロケーションを比較すると次のようになります。 + +- アセットアロケーション1 は インデックスの代わりに個別株を半分混ぜた例 +- アセットアロケーション2 は インデックス資産の割合を50%から80%に増やした例 + +です。 + +| | 現金の割合 | A (インデックス)の割合 | B (個別株) の割合 | 資産全体のリターン | 資産全体のリスク | 資産全体のシャープレシオ | +| ------------------------ | ---------- | ---------------------- | ----------------- | ------------------ | ---------------- | ------------------------ | +| アセットアロケーション 1 | 50% | 25% | 25% | 3.75% | 8.0% | 0.45 | +| アセットアロケーション 2 | 20% | 80% | 0% | 4.0% | 8.0% | 0.5 | + +どちらも資産全体としてとっているリスクは同じですが、前者よりも後者のほうがリター +ンが高くなります。 + +まとめますと、元の質問「私はインデックスよりも大きなリターンがほしいからインデッ +クスに加えて個別株にも手を出しています。いけないでしょうか?」に対する答えは + +- 大きなリターンがほしいなら、インデックスオンリーにしましょう。 +- リターンが欲しくない、リターンを小さくしたいのであれば、個別株を混ぜましょう。 + +が答えになります。 + + + +- ここでは、AB の相関は無視しています。 +- 「リスクが同じといっても、リスク資産がすべてなくなったときのダメージは、アセッ + トアロケーション 2 のほうが大きいですよ!」と思わず考えてしまいますが、それは + 「リスク資産が瞬間的に減少する」というありえない前提にもとづいています。通常は + アセットアロケーションのバランスを保つために定期的にリバランスをしますので、同 + じリスクを取り続けている限り、仮に資産が減るとしても、資産の減り方はどちらもほ + ぼ同じです。 + + + + + +考え方のコツ: リスクの調整の仕方 + +多くの投資に関する記事には + +「リスクをとれるならハイリスクな個別株を!リスクをとれないならインデックスを!」 + +と書いてあることでしょう。このように + +「保有するリスク資産の"種類"によってリスクを調整しましょう!」 + +という考え方は、資産全体でリスク・リターンがどうなるかを考慮しておらずそのほぼす +べてが間違いです。その結果、同じリスクでもっと高いリターンをとれるにもかかわら +ず、低いリターンに甘んじる結果になります。 + +リスクは「保有するリスク資産の種類によって調整」するのではなく「リスク資産をどれ +だけ買うかで調整」しましょう。 + + + +### 私は若いときは個別株でリスクをとっていきたいです!将来、ある程度、資産形成ができたらインデックスにしたいと思います! + +トービンの分離定理に従うと、それは間違いです。 + +「若いときにリスクをとり、将来ある程度資産形成ができたらリスクを減らした資産運用 +をしたい」のであれば、例えば + +- 若いとき:「現金 20%: インデックスファンド 80% 」 +- 将来: 「現金 70%: インデックスファンド 30% 」 + +にするとよいでしょう。繰り返しになりますが、「資産の種類を変える」のではなく「リ +スク資産の割合を変える」のがよいです。 + +### インデックスファンドとしては、アメリカ株 (S&P500等)100%でよいのでしょうか? それとも、オルカン のように全世界株のほうがよいのでしょうか? + +どちらを選ぼうと、大きなミスにはならないでしょう。このあたりまでくるとどちらも正 +解です。 99 点 vs 98 点とかそれくらいの差だと思います。 + +理論上もっとも投資効率がよくなるのは時価総額荷重にもとづいて保有することですがそ +の母体となる「世界 (ユニバース)」は広ければ広いほどよいです。 この観点において +は全世界のほうが「世界」が広いため全世界株式のほうがよいです。 + +- 世界の広さ: 全世界 > S&P500 + +ただし現実では保有に必要なコストを考慮する必要があります。コストは表面上知ること +ができる信託報酬だけの話だけではありません。実際は目に見えない様々なコストが間接 +的にかかっており、その観点では S&P500 のほうがコストが低い・つまり優秀といえま +す。 + +- コストの優秀さ: S&P500 > 全世界 + +つまり一長一短であり、どちらがよいかはそれぞれの程度しだい定量問題です。 + +- 「世界の広さ」の観点では S&P500 ほどの広い世界であればほぼ十分効率的といえま + す。全世界と比較して大きな差が生まれるほどではないでしょう。 + +- 「コスト」の観点では全世界の株式を保有するためのコストは、金融技術が発達・投資 + 環境が年々整備されるにつれ下がっており、S&P500 と比較してそれほど引けをとって + いるわけではありません。 + +結局どちらであろうともはや大きな差はないでしょう。迷うくらいなら、普通にオルカン +等の全世界株でよいと思います。 + + + +考え方のコツ: 大きな差はない? + +「大きな差はない」というのはあくまで投資効率あるいは期待リターンに関してです。 + +両者の成績が将来まったく同じになるというわけではありません。これはまったく同じ2 +つのサイコロを与えられた場合、「どっちのサイコロを選んでも差はないです!!」と同 +様です。 + +どちらのサイコロを選んで振ろうと、そこに有利・不利はありませんが、2つのサイコロ +を振って出る目は毎回一致するわけではありません。 + + + +### それでも私はどちらにするか選べません!選べないから私はどっちも半分ずつもちます!それってだめですか? + +「選べないから私は全世界株と S&P500 を半分ずつ!」という方もいらっしゃると思いま +すが、おそらくそれらは + +「なんとなく全世界のほうが安全そうだけど、S&P500 の過去リターンを見ていたら、 +そっちも捨てがたい!悩む!」 + +という「ゆるゆわ」な考えからでしょう。そのような特定の商品・インデックスの特定の +期間の「過去リターン」を理由に商品を選択するのは、典型的な「余計なこと」です。 + +なお「半分ずつもつ」というのは実際にはそこまで投資効率を落とすというわけではあり +ません。それぞれの商品が 99 点 vs 98 点だとしたら、半分ずつもつのは は 97 点くら +いといってよいでしょう。 + +「半分ずつもった」からといって「結果のリターン」がちょうど両者の成績の中間になる +とは限りません。実際には「どちらにも負ける」ことが起こりえます。結果が「単純に足 +して 2 で割った成績」、いわゆる算術平均にならないのは、 50% + 50% のバランスを保 +つために定期的にリバランス等を行うからです。もしリバランスを行わないのであれば、 +それはもはやポートフォリオとは呼べるものではなく、もはやこの議論の対象外です。:) + +気をつけたいのは、そのような余計なことをする人は、おそらく将来も「その時点での過 +去リターン」にもとづいて余計なことをする可能性があるということです。 将来「直近 +5 年のリターンは XXX 国ファンドがいい!これもちょっと買っておく!」等、やってし +まうでしょう。それらを繰り返すうちに、結果、時価総額荷重からはますます遠く離れ +て、投資効率を大きく落とすことになるでしょう。 + +「私はそのような余計なことを将来してしまいそう...」と不安な方は、最初から全世界 +株のみでよいと思います。悩む必要はなくなりますし、悩んでも何も得るものはありませ +ん。 + +### リスク資産として株式だけでなく債券も入れたほうがよいといわれたのですが? + +「普通の人」はリスク資産は株式 100%でいいと思います。 + +「株式と債券」などのようにリスク資産を 2 種類以上持ち、それを組み合わせたアセッ +トアロケーションをつくるのは、普通の人にとっては難しすぎると思います。普通の人が +それをしたからといって、結果として得られるリスク資産の全体の投資効率(シャープレ +シオ)が、もともとのリスク資産 1 種類(市場ポートフォリオ)の投資効率を上回るこ +とはまずありません。 + +株式と債券の割合をどうすれば、理論上、シャープレシオが株式の市場ポートフォリを上 +回るのか、現実問題として不明瞭です。現在、出回っている株式と債券を組み合わせた商 +品はこのあたりの割合が理論的根拠に乏しいもののが多いです。特に何の根拠もなく半分 +ずつとしている、あるいは過去の実績から株式と債券の割合を決めている商品等です。こ +のあたりの問題は現実的には未解決・金融技術が追いついていないと言えるでしょう。 + +それよりは、リスク資産はシンプルに 1 種類だけにしておき、アセットアロケーション +をシンプルに保ったほうがよいでしょう。簡単にリスクとリターンを把握できるし、リス +ク・リターンの調整も簡単です。リスクとリターンの調整は、あくまで、現金とリスク資 +産の割合で行いましょう。 + +「債券をいれたほうが変動がマイルドになる」と同じ効果を得たいなら、単にリスク資産 +の割合を減らすだけでよいです。 + + + +考え方のコツ: 個人で新幹線をつくる? + +これは債券に限った話ではありません。「銘柄の組み合わせが...」「最適なポートフォ +リオーを組むには株式と債券と金を...」といった資産運用に関する記事は未だに多く見 +かけますが、個人で複数のリスク資産を組み合わせてポートフォリオを工夫して組んでも +その努力が報われる確率は低く、また見返りが大きいわけでもなく、結局はインデックス +オンリーのポートフォリオに勝てないことが大半です。 + +「東海道新幹線は完璧ではない!私ならそれよりも速い・安全な新幹線をつくることがで +きる!」と考えるようなものです。確かに東海道新幹線は完璧ではないかもしれません +が、普通の人はよりよい新幹線をつくろうとは思わないで普通に乗ります。 + + + +### 投資信託をオススメしているようですが、海外 ETF を直接購入するのはどうでしょうか? + +TODO: 海外 ETF を買う必要性はもはやないに等しい、買う人もほとんどいないでしょう +から、このセクションは削除予定。 + +手間は気にしない、外国税額控除をきちんとする、短期で運用するという前提では、ETF +が依然としてコストの観点では若干有利です。ですが、ほとんど差がない、99 点が 99.1 +点になるといった誤差レベルですので、あえて手間をかけてまで ETF を直接購入する必 +要はほとんどの人にとってはないでしょう。特に 新 NISA では外国税額控除が利用でき +ないので、分配金をださない投資信託でよいです。 + +参考) +[計算結果 (in Rust)](https://play.rust-lang.org/?version=stable&mode=debug&edition=2018&gist=1cb8936a2894dbdd28272794e73bbbbb) + +## マーケットタイミングを読まない + +### 「今は高値だから現金を貯めておいて暴落時に買おう」はどうしてだめなのでしょうか?一見うまくいきそうなのですが。 + +「今は株価は高値だから買うのは控えて現金をためておこう。暴落したら買おう」と思っ +てしまうのは人間としての自然な心理ですが、それは机上の空論です。それが継続的にう +まくいくことは決してありません。 + +以下にそれを証明します。 + +例えばインデックスファンド「楽天オルカン」を買っている人がいるとしましょう。 + +その人が「今は楽天オルカンの株価は高値だから買うのは控えて現金をためておこう。暴 +落するときを待ってそのタイミングで買おう」という戦略をたてるとします。 + +もしその戦略が「うまくいく」と仮定します。すると、なにが起きるでしょうか? + +そのような戦略がうまくいくなら、いまごろ「そういうことをする」ファンドが登場して +いるはずです。 + +たとえば SBI 証券から + +「SBI 「楽天オルカン」 を暴落時に買うファンド」 + +が登場しているはずです。このファンドの運用方針は: + +- 「楽天オルカン」 の価格が*高い*ときには「楽天オルカン」 を購入するのではなく現 + 金としてためておく +- 「楽天オルカン」 の価格が*暴落*したときに「楽天オルカン」 を購入する + +となります。このファンド「SBI 「楽天オルカン」 を暴落時に買うファンド」の運用成 +績は「楽天オルカン」の運用成績を上回ります。 + +すると、今度は楽天証券から + +「楽天 「SBI 「楽天オルカン」 を暴落時に買うファンド」を暴落時に買うファンド」 + +が登場することでしょう。このファンドの運用方針は: + +- 「SBI 「楽天オルカン」 を暴落時に買うファンド」 の価格が*高い*ときには「SBI + 「楽天オルカン」を暴落時に買うファンド」を購入するのではなく現金としてためてお + く +- 「SBI 「楽天オルカン」 を暴落時に買うファンド」 の価格が*暴落*したときに「SBI + 「楽天オルカン」を暴落時に買うファンド」 を購入する + +となります。このファンド「楽天 「SBI 「楽天オルカン」 を暴落時に買うファンド」を +暴落時に買うファンド」の運用成績は「SBI 「楽天オルカン」を暴落時に買うファンド」 +の運用成績を上回ります。 + +すると、今度は SBI 証券から + +「SBI 「楽天 「SBI 「楽天オルカン」 を暴落時に買うファンド」を暴落時に買うファン +ド」を暴落時に買うファンド」 + +が登場することでしょう。 + +このファンド「SBI 「楽天 「SBI 「楽天オルカン」 を暴落時に買うファンド」を暴落時 +に買うファンド」を暴落時に買うファンド」」の運用成績は「楽天「SBI 「楽天オルカ +ン」 を暴落時に買うファンド」を暴落時に買うファンド」の運用成績を上回ります。 + +そして、それをさらに暴落時に買うようなファンドが登場するでしょう。 + +そして、それをさらに暴落時に買うようなファンドが登場するでしょう。 + +.... + +このあたりでこのような戦略が机上の空論であるということに気づくと思います。 + +証明終わり。 + + + +考え方: マーケットタイミング + +「今は高値だから」のような情報はとっくに市場に織り込み済みと考えましょう。もし株 +価にとってマイナスになる情報がでたとしても、普通の人がその情報を知るころには、プ +ロ中のプロ、あるいは自動プログラムが売却をはるか昔に終わらせています。それらの材 +料をすべて考慮して適正な値に下がった結果が今の価格です。 + + + +### さきほどの A さんの例だと、50%を一括で投資していましたが、それでよいのでしょうか?少しずつ分割して投資したほうがよいのではないでしょうか? + +あなたは「ドルコスト平均法の呪い」にかかっています。優先すべきは、あくまでアセッ +トアロケーションであり、決してアセットアロケーションを考慮しないで「ドルコスト平 +均法」自体を「目的」にしてはいけません。 + +たとえば、50%を: + +- 10%ずつ 5 年にわけて分割で投資する (ドルコスト平均法; DCA: Doller Cost + Averaging) +- あるいは、50%を一括投資する (LSI: lump-sum investing) + +それぞれの場合、どのようなアセットアロケーションになるか見てみましょう。 + +(ここでは、簡単化するため毎月のつみたて額は考慮しないとします) + +| | ドルコスト平均法 | 適切な一括投資 | +| ------ | ---------------- | -------------- | +| 1 年目 | 90:10 | 50:50 | +| 2 年目 | 80:20 | 50:50 | +| 3 年目 | 70:30 | 50:50 | +| 4 年目 | 60:40 | 50:50 | +| 5 年目 | 50:50 | 50:50 | +| 6 年目 | 50:50 | 50:50 | +| 7 年目 | 50:50 | 50:50 | +| 8 年目 | 50:50 | 50:50 | +| ... | ... | ... | +| | | | + +「ドルコスト平均法」は、A さんのリスク許容度が 50:50 にも関わらず、最初の 5 年間 +は、A さんはリスク許容度よりも圧倒的に低いリスクしかとっていません。 必要以上に +ローリスク・ローリターンなアセットアロケーションをとるには、合理的な理由が必要で +す。 + +このような「ドルコスト平均法」をとる人の心理は、大抵の場合、「一括投資した直後に +暴落がきたらどうするんですか!」だと思います。試しに、今後 10 年の間に 1 年だけ +暴落(-20%)が起きる、それ以外の年はリターンが 4%という場合、50%部分のそれぞれの +10 年後の成績はどうなるか見てみましょう。 + +| 暴落が起きる年 | ドルコスト平均法 | 適切な一括投資 | +| -------------- | ---------------- | -------------- | +| 1 年目 | 1.302 | 1.139 | +| 2 年目 | 1.237 | 1.139 | +| 3 年目 | 1.174 | 1.139 | +| 4 年目 | 1.113 | 1.139 | +| 5 年目 | 1.054 | 1.139 | +| 6 年目 | 1.054 | 1.139 | +| 7 年目 | 1.054 | 1.139 | +| 8 年目 | 1.054 | 1.139 | +| 9 年目 | 1.054 | 1.139 | +| 10 年目 | 1.054 | 1.139 | + +- ドルコスト平均法の場合は、暴落が起きる年によって、最終的なパフォーマンスが変化 + します。 +- 適切な一括投資の場合は、暴落がいつ起きても、パフォーマンスは同じ (= 1.139) で + す。 + +つまり、ドルコスト平均法は適切な一括投資に比較して: + +- 1 年目に暴落が起きると相当得 (+0.164) +- 2 年目に暴落が起きると得 (+0.098) +- 3 年目に暴落が起きると少し得 (+0.035) +- 4 年目に暴落が起きると少し損 (-0.026) +- 5 年目に暴落が起きると損 (-0.084) +- 6 年目に暴落が起きると損 (-0.084) +- 7 年目に暴落が起きると損 (-0.084) +- 8 年目に暴落が起きると損 (-0.084) +- 9 年目に暴落が起きると損 (-0.084) +- 10 年目に暴落が起きると損 (-0.084) +- ... + +となるような(一般にはマイナスサム)な賭けに参加するようなものです。このように +「特定の期間に暴落が起きる」ことに合理的な理由もなく賭けることは避けるべきです。 + +すべての情報は株価に織り込み済みと考えるのであれば、このような賭けに参加するべき +なのは、「世界で自分だけ」がまだ市場に織り込まれていない特別な情報を知っていると +いう特殊な状況のみでしょう。 + + + +考え方のコツ: 長期投資とドルコスト平均法 + +「資産運用は短期より長期のほうがいい!」という話はほぼすべての人が同意できるで +しょう。実際その通りです。にもかかわらず「市場にすぐに資金を投入できる機会があっ +たにもかかわらず、それをしないで投資のタイミングを先送りして投資する」すわなち +「投資期間をあえて短くする」ことを選んでしまうのが「ドルコスト平均法の罠」です。 +「短期より長期のほうがいい!」と理解していながら、「長期より短期」を選んでしまう +のです。 + +資産運用のリターンは結局のところ「できるだけ多くの資産」を「できるだけ長い年数」 +市場においておくことでほぼ決定されます。そのため、リスク許容度の範囲内で、「リス +ク資産の額」x「年数」であらわされる「掛け算の結果」をできるだけ多くするのが重要 +と考えるとよいでしょう。 + +例) + +適切な一括投資をすることで: + +- 「500 万円」x「5 年間」 + +の資産運用をできる機会があったとしましょう。この際に、適切な一括投資ではなく、た +とえば 5 年間に渡って分割投資・ドルコスト平均法を選択するということは、「500 万 +円」x「5 年間」の資産運用ができる機会があったにもかかわらずその機会を自ら捨てて: + +- 「(平均して)250 万円」x「5 年間」 + +あるいは別の見方をすれば + +- 「500 万円」 x 「(平均して)2.5 年間」 + +という選択を自らしているようなものです。 + +ちなみに「ドルコスト平均法」をしようと「適切な一括投資」をしようと「投資効率」は +変わらないことにご注意ください。「とるべき適切なリスク」を期間中にとっていないこ +と、それにより「全体のリターンが落ちる」ことが「ドルコスト平均法の罠」です。 + + + +### ドルコスト平均法はだめなんでしょうか?私は給料の中から毎月 3 万円つみたてしているのですが! + +大丈夫です。それはおそらくですが「ドルコスト平均法」ではありません。ドルコスト平 +均法は「つみたて」(continuous, automatic investment)とは違います。 + +「つみたて」でしたら、なんの問題もありません。それはある意味、1 年に 12 回、「一 +括投資」しているものです。 + +ドルコスト平均法はもともと、投資を始めた直後や、相続や贈与などで一時的にまとまっ +た資金を手にいれたときに、(リスク許容度の範囲内で)一括で投資できるにもかかわら +ず、あえて市場に投入するタイミングを遅らせて分割しながら一定額ずつ入れることをい +います。つまり「ドルコスト平均法」とは「あえてタイミングを遅らせている」つまり +「マーケットタイミングを読もうとしている」投資方法です。 + +実際のところ、ドルコスト平均法自体には(心理面を除いて)魔法のような特別なメリッ +トがあるわけではなく、アセットアロケーションを歪める要因になるだけです。未来を予 +測する能力がない・マーケットタイミングを決してはかったりはしない「普通の人」に +とっては、とても合理的とは呼べる戦略ではありません。 + +「普通の人」がするのは、「つみたて」と「適切な割合を一括で投資」であって、ドルコ +スト平均法ではありません。自分にあったアセットアロケーションを維持することがあく +まで優先するべきことであって、その手段として「つみたて」と「適切な割合を一括で投 +資」があります。と考えればよいでしょう。 + +参考) +[Dollar cost averaging](https://en.wikipedia.org/wiki/Dollar_cost_averaging), +[Dollar-cost averaging just means taking risk later](https://static.twentyoverten.com/5980d16bbfb1c93238ad9c24/rJpQmY8o7/Dollar-Cost-Averaging-Just-Means-Taking-Risk-Later-Vanguard.pdf) + + + +考え方のコツ: ドルコスト平均法という用語 + +歴史的な理由により、ドルコスト平均法という用語は + +- 「毎月、給料から一括投資」しているという意味での通常の「つみたて投資」を指す場 + 合 +- 一括で投資できるにもかかわらず、あえて市場に投入するタイミングを遅らせて分割し + ながら一定額ずつ入れることを指す場合 + +の2つの違う意味で用いられており、混乱の元になっています。この混乱を避けるために +「ドルコスト平均法」のことを後者のことだけを指すようにして、前者は別の言葉を用い +ようという動きが英語圏ではあったそうですが残念ながらそれらの試みはうまくいってい +ないようです。 + +幸いなことに日本語では「つみたて」というわかりやすい素敵な言葉があるので、「ドル +コスト平均法」のことは忘れて毎月「つみたて」しましょう。 + +ちなみに + +「私は一括で投資するお金がないから、毎月、給料から2万円ずつドルコスト平均法して +いるだけです!」 + +という方もいますが、ドルコスト平均法とは金額の絶対額の問題ではありません。その人 +が「ドルコスト平均法」をするというのは + +「2万円を一括で投資できるにもかかわらず、20ヶ月にわけて毎月千円ずつ投資する」 + +ということです。...やはり「ドルコスト平均法」は混乱の元ですので忘れたほうがよさ +そうです。 + + + +### でもドルコスト平均法なら「株価が安いときに多く」株数を購入することができます。これってよいことでは? + +ドルコスト平均法の説明として、あたかも「株価が安いときは多く買える」ことが「よい +こと」であるかのような説明をしている記事は多いです。残念なことに証券会社のサイト +の説明にも未だに「ドルコスト平均法」が商品の販促のための材料に使用され、そのよう +なことがあたかもメリットであるかのように伝えています。 + +たしかに、例えば、現金 1 万円で株式を 1 万円分購入するとしたら、 + +- A) 株価が 500 円のときは 20 枚 +- B) 株価が 1,000 円のときは 10 枚 + +購入することになります。これで「A のほうがよい」と考える方、どうか冷静になってく +ださい。 A も B もどちらも同じ 1 万円分の価値です。 + +たしかに、A のほうが枚数は多いですが、枚数が多く買える理由は「一枚あたりの価値が +小さい」からです。 + +わかりやすく例えると 1 万円札を両替するときに + +- A) 500 円玉 20 枚に両替 +- B) 1000 円札 10 枚に両替 + +に両替するとして「A のほうが枚数を多く買えた!」と喜んでいるようなものです。 + +現金 1 万円で購入できる株式はいつだって、その売買の瞬間は合計 1 万円分の価値であ +り「株数だけ」に注目するのは何の意味もありません。 + +「でも株数を多く買ったほうがその後株価が値上がりしたときに多く利益がでるので +は?!」 + +と思った方、冷静になってください。たとえばその後 10% 株価が値上がりしたとしま +しょう。その際、 + +- A) 500 \* 1.1 \* 20 = 11,000 +- B) 1,000 \* 1.1 \* 10 = 11,000 + +でどちらも 11,000 円です。 + +### 出口戦略 / いつ売却すればよいのでしょうか?ここまでの説明だと買うことばかりで、いったいいつ売却(利益確定)すればよいのかわかりません。 + +ここまでの説明で「いつ売却すればよいのか?」の説明も実はすんでいます。 + +> 定期的に(年に 1 回、あるいは数年に 1 回)、アセットアロケーションについて見直 +> しましょう。 + +を思い出しましょう。 + +例えば、65 歳まで 現金:リスク資産 = 50:50 の割合で資産運用をしてきた人がいるとし +ましょう。 + +| 現金 | リスク資産 | +| ---------- | ---------- | +| 1,500 万円 | 1,500 万円 | + +もう収入はありませんので、年金と現金を使って生活することになるでしょう。 + +さて、3 年後にはこうなりました。現金は 200 万円減りますが、資産運用は続けていま +すので、リスク資産は 1700 万円に増加しています。 + +| 現金 | リスク資産 | +| --------- | ---------- | +| 1300 万円 | 1,700 万円 | + +どうやら、バランスがいつの間にか悪くなっているようです。アセットアロケーションを +50:50 に戻すために、リスク資産を 200 万円分売却することにします。 + +| 現金 | リスク資産 | +| --------- | ---------- | +| 1500 万円 | 1,500 万円 | + +これで 50:50 になりました。 + +まとめますと: + +- 利益確定のために売却する必要はありません。「利益確定」という概念は捨てましょ + う。資産運用は一生続くものだと考えましょう。 +- 売却する必要があるのは、アセットアロケーションのバランスを保つときだけだと考え + ましょう。 +- 購入するのも・売却するのもそれらは手段であり、その目的はアセットアロケーション + のバランスを保つためだと考えましょう。出口だからといって特別な方法が必要なわけ + ではなく、今までやってきたことと同じことを続けるだけです。 + +さきほどのようなパターンが続くのであれば、この作業を自動化してくれるサービスもあ +るようです。 + +- [SBI 証券:投資信託定期売却サービス](https://www.sbisec.co.jp/ETGate/WPLETmgR001Control?burl=search_fund&cat1=fund&dir=info&file=fund_info120316.html) + +## 余計なことを考えない + +### ロボアドバイザーってどうなんでしょうか? + +_記事の公開にあたってこの部分は削除しました。_ + +### レバレッジ型商品はどうでしょうか?! + +レバレッジというといかにも怪しそうですが、レバレッジはリスク・リターンを調整する +ためのきちんとした手法のひとつです。例えば、私は「リスク資産100%のアセットアロ +ケーションよりも大きなリスクをとれます!」という人には、レバレッジはその手段のひ +とつになるでしょう。 + +ただし「普通の人」があえて高いリスクをとるためにレバレッジをつかってまで高いリ +ターンを求める必要が本当にあるかは、慎重に判断する必要があるといえます。 + +すくなくともレバレッジは「高コスト」という明確なリターンへの影響があるので、それ +らを十分理解した上で、よほどの特殊な状況におかれている一部の人を除いては、必要な +いでしょう。 + +アセットアロケーション的には、レバレッジは、例えば「現金:リスク資産 = -100:200」 +に相当します。いわゆる「負のアロケーション」を含むアロケーションです。「現金:リ +スク資産 = 0:100」よりもハイリスク・ハイリターンになります。ただし、コストの分だ +け、投資効率は低くなります。 + +### レバレッジのリスクは高いのは理解していますが私は耐える自信があります!「リスク許容度」は高いです! + +それは頼もしいですね。「リスク許容度」という言葉は割と誤解を生みやすい言葉であ +り、「許容」という言葉からつい「耐えることができるかどうか」というメンタルだけの +問題だと想像してしまいますが、前述のとおり、リスクは「実際の」リターンに確実に影 +響を及ぼすものです。残念ながら「耐えれば OK!」では済みません。 + +理論的な話を少しするならば、レバレッジはかければかけるほどリターンがあがるという +性質はもっていません。事実はその逆です。レバレッジ倍率をあげていくと途中からリ +ターンが逆に**下がる**という現象がおきます。ここにも「無料のランチ」は存在しない +のです。 + +なぜそのような現象がおきるか詳細はなるべく省いて簡単に説明します。以下は興味のあ +る人向けです。とばして読んでも構いません。興味がなくても最後の図だけでも見ていっ +てください。 + +時刻 $ t $ における ある商品の価格 $ S_t $が幾何ブラウン運動に従うというモデル: + +$$ d S_t = \mu S_t dt + \sigma S_t d B_t $$ + +において、レバレッジを $ L $ 倍かけたとします。 + +$$ d S_t = L \mu S_t dt + L \sigma S_t d B_t $$ + +その結果、時刻 $ t $ における価格の中央値(= 価格の対数期待値と一致します)$ M_t +$ は + +$$ +M_t = S_0 \exp \left( \left(L \mu - \frac{L^2 \sigma^2}{2} \right)t \right) +$$ + +になります。 $ \mu $, $ \sigma $ を定数、$ L $ を変数とし、指数部分に注目すると + +$$ L \mu - \frac{L^2 \sigma^2}{2} $$ + +これはみなさん中学生のときに学習したおなじみの上に凸な二次関数です。レバレッジ倍 +率 $ L $ とリターンの中央値の関係をプロットすると以下のようになります。 $ \mu $ += 5%, $ \sigma $ = 20% の場合です。 + +![leverage](/2020/investing/leverage.png) + +この場合は、レバレッジ倍率 L を大きくするにつれて、リターンの中央値・ 対数期待値 +はレバレッジ倍率 1 倍、つまり通常の「フルインベストメント」までは「ほぼ」線形に +リターンが増えていきます。しかしそれを過ぎるとリターンがあまり増えなくなります。 +途中からはむしろ逆にリターンが下がっていき、3 倍までいくとリターンはプラスどころ +かむしろマイナス、つまり資産が減ることになります。 + +このような性質があるため、たとえば 「FX で 50 倍!」のような極端なレバレッジ倍率 +は破産する・資産がほぼゼロになる確率が時間とともに 100% になっていきます。 + +株式におけるレバレッジも同じです。しきい値を超えてレバレッジ倍率をあげればあげる +ほどリターンが上がるどころか逆に下がってしまいます。レバレッジの高コストを払い、 +さらにリスクをとっているのに、逆にリターンが下がるといういわゆる「ふんだりけった +り」になってしまいます。 + + + +考え方のコツ: そのサイコロにはレバレッジをかける価値がありますか? + +一部の勘のよい読者は + +「 $ \mu $ = 5%, $ \sigma $ = 20% の場合は確かにそうかもしれませんが、もっとよい +商品、すわなちそれよりもリスクが低く、リターンが高い商品ならレバレッジをかけても +よいのでは?」 + +と気づいたかもしれません。レバレッジ型商品の広告などでよく見られるレバレッジをか +けた場合の「過去リターンのシミュレーション」を見るとそう思ってしまっても不思議で +はないでしょう。 + +ですが、金融商品の販売会社は「過去のリターンがよい」ものを恣意的に選択して、それ +をレバレッジ型商品として販売する傾向があるということに注意してください。 + +前のサイコロの例を覚えているでしょうが?仮に + +「レバレッジをかける価値があるサイコロとは、出る目の期待値が5以上のサイコロであ +る」 + +としましょう。過去の直近の期間において出た目の平均が5以上であったサイコロは簡単 +に見つけることができます。ですが、そのサイコロにレバレッジをかけた場合、将来のリ +ターンがどうなるかは想像できるでしょう。 + + + +### 世の中には「レバレッジ 50 倍をかけて FX で大儲け!」「資産が少ないなら信用取引をしましょう!信用取引は危ないイメージがありますがどんな手法も使い方次第です!」等の甘い誘惑があります。資産が少ない私はこれらに手を出した方がよいのでしょうか? + +絶対に手をださないでください。 + +### 私は定年まではインデックス投資で資産を増やし、定年前後には高配当株に乗り換えて配当金生活を送る予定です。この戦略はどうでしょうか? + +やめましょう。典型的な「余計なこと」のひとつであり、投資効率が落ちるだけです。い +ろいろな面で「相当」落ちます。 + +先程述べたように、定年後に定期的に現金が必要になるのであれば、証券会社の投資信託 +定期売却サービスを利用すればよいでしょう。それが「配当」の代わりになると考えるほ +うが筋がよいでしょう。 + +「配当」のために、インデックス投資と比較して一般に投資効率が低い・リターンが低い +とされている高配当株にあえて定年前後に乗り換える合理的な理由はありません。 + +なにより定年前後で乗り換えのために一度にリスク資産を売却すると、譲渡益に対する税 +金をそのタイミングで一度に支払わないといけません。税金を支払うのはできるだけ先送 +りにしたほうが投資効率はよいです。 + +### そうはいっても配当がもらえるって嬉しいじゃないですか!高配当株はだめなんですか? + +短く答えると、それは「給料は銀行振込で 20 万円振り込まれるよりも、現金で 19 万 +9000 円直接手渡しされるほうが嬉しいです!」という発想とたいして変わらないと思い +ます。 + +もう少し長く答えるならば、高配当投資・配当をだすことが資産運用の効率をいかに下げ +るか、その非効率さが長期投資になればなるほどどれほど顕著になるか、単純な設定で計 +算してみましょう。 + +商品がふたつあるとします。フェアに比較するためどちらもトータルリターンが 5%とし +ます。ただし、一方は + +- A) リターンの 5%分すべてを配当としてだすいわゆる高配当株 + +もう一方は + +- B) インデックスファンドであり分配金は一切ださない + +とします。 + +なお配当は税金 20%分を除いてすべて再投資するとします。投資するのはどちらも特定口 +座で行います。 + +この条件で 100 万円を 60 年間運用するとしましょう。その結果、税引き後の資産額は +前者の高配当株の配当再投資の場合は + +- A) 1,052 万円 + +後者の無分配のインデックスファンドの場合は + +- B) 1,514 万円 + +になります。資産額として 50%近い差がうまれます。 + +よかったら自分で計算してみましょう。これは「税金の支払いを先送りする」ことが資産 +運用において如何に長期で有利に働くかというよい例です。結論編で述べた iDeCo のお +得度が高い理由もここにあります。 + +なお新 NISA のような非課税口座で運用する場合はこのような差は生まれませんが、それ +でも高配当投資は配当を再投資する際、新 NISA の枠をその分多く使用することとなり、 +それは「新 NISA の枠が小さくなる」と同じ効果といえます。 + +どちらにせよ資産運用にあたって、無分配と比較した場合、配当はなにもよいことはあり +ません。配当再投資とは例えるなら + +「銀行口座から手数料を払って ATM でお金を引き出し、そして引き出したお金をすぐに +銀行口座に入金している」 + +行為を繰り返すようなものです。 一見ほんのわずかな差に思えることも、資産運用とい +う「複利の世界」では「断続的に損な行為を繰り返す」ことは長期では大きな差がつく要 +因になります。 + +# その他のよくある質問と答え + +## すでに特定口座で 500 万円ほど運用しています。含み益が 100 万円ほどあります。新 NISA がはじまる際、特定口座の資産を売却して新 NISA に移したほうがよいでしょうか? + +Note: このセクションは削除予定。 + +新 NISA に移したほうがお得になるかどうかはさまざまな条件によって異なります。 + +売却に伴う譲渡益にかかる税金を払ってでも非課税枠に移したほうがほとんどの場合得で +す。ですが、本人がその年に利用したい政府の制度(分離課税なら問題ないでしょうが、 +一部の制度は総合課税の所得をチェックします)、あるいは本人の今後の収入・つみたて +額等を考えると移さないほうがよいケースもあります。総合的に考えましょう。 + +一般解を簡潔に述べるのは困難ですので、ここではいくつかの具体的な例をあげるにとど +めておきます。ただし先程述べた理由で必ずそうとはいえないケースもあることに注意し +てください。 + +### A さんの場合 + +A さんは 2023 年 12 月の時点で特定口座で 500 万円運用しています。2024 年以降、A +さんは新 NISA には毎月 10 万円つみたてできます。 + +- 2024 年: 特定口座から(税引後)240 万円分を新 NISA に移しました。毎月のつみた + て 10 万円 分とあわせて、2024 年は 新 NISA の枠の上限 360 万円使いきりました。 +- 2025 年: 特定口座から(税引後)240 万円分を新 NISA に移しました。毎月のつみた + て 10 万円 分とあわせて、2025 年は 新 NISA の枠の上限 360 万円使いきりました。 +- 2026 年: ...以下、同様です。新 NISA の枠が使い切れないのであれば適宜、特定口座 + から移したほうがよいでしょう。 + +### B さんの場合 + +B さんは 2023 年 12 月の時点で特定口座で 500 万円運用しています。2024 年以降 +は、B さんは新 NISA には毎月 30 万円つみたてできます。 + +この場合は + +- 2024 年以降: 毎月のつみたて 30 万円 だけで、新 NISA の枠が上限一杯まで使用でき + るので、特定口座の資産には手をつける必要はありません。 + +ここではわかりやすい例を 2 つだけ示しました。それ以外のケースや詳細にはここでは +触れません。 自分で実際に計算してどちらがお得になるか計算してみることをおすすめ +します。 + +## 資産運用ってもっと一攫千金の夢があるものだと思っていました! + +そんなものはありません。フリーランチは存在しません。いままで平均点以下だったわれ +われ「普通の人」が時間をほぼ使うことなく「理想的な点数」をとれるだけで十分ありが +たい話です。実際、これより上の方法を目指しても 99 点が 100 点に近づくだけであ +り、多くの場合は余計なことをして逆に点数を下げてしまうだけです。 + +市場平均で必要十分であると理解するメリットのひとつとして、世の中にあふれるぼった +くり商品に騙されにくくなるということです。 + +この記事のタイトルにあえて「70 点」などの謙遜した点数ではなく「99 点」とつけたの +は、下手に「70 点」のような正確ではない点数をつけてしまうと「もっと 100 点をとれ +るようなよい方法があるのではないか?」と思わせてしまうのはよくない、と思ったから +でした。SNS 等では、投資詐欺・アフィリエイター・悪質な商材屋等がはびこっており、 +市場平均が理想的であると理解していない人は、そのような甘い言葉をそのまま受け入れ +てしまい、「月利 10%!」のようなありえないリターンで誘惑してくるぼったくり商品に +騙されしまうでしょう。 + +夢は資産運用以外で叶えましょう。 + +## インデックスファンドがよいことはわかりました。しかし SNS 等では「インデックス投資は思考停止。勉強にならない。毎日、投資に真剣に向き合うべき」という声があります! + +以下は投資とは関係ない話ですが、参考になれば幸いです。 + +自動洗濯機が登場したとき、これまで洗濯板で洗濯をしていた人たちは + +- 「自動洗濯機は思考停止。自分で洗濯しないといつまでたっても成長しない。」 + +と自動洗濯機を利用して洗濯で楽をする人たちに苦言を呈していたそうですよ。 + +いつの時代だって自分たちが今まで苦労してきたこだわりがある分野において「新しい技 +術」が登場したときは、苦労もしないで「技術を利用して楽をする」人たちに苦言を呈し +てしまいたくなるものです。 + +- 自動車は思考停止。馬車こそが至高。 +- カーナビは甘え。自分で道をすべて覚えるまではドライブに行くな。 +- ロボット掃除機は甘え。自分で掃除しないと掃除の技術は身につかない。 +- キャッシュレスではお金の管理ができない。現金が一番。 + +これらは趣味でやるぶんには何の問題もないでしょう。 + +ただし洗濯が趣味でもない普通の人が自動洗濯機で洗濯していることに対して、「自動洗 +濯機は思考停止」と苦言やクレームをいってくる人が周りにいたとしても、それらの人た +ちのことは温かい目で見守ってあげましょう。決してそれらの人たちのことを「洗濯板お +じさん・おばさん」とバカにしてはいけません。 + +余裕をもって話を聞いてあげればよいと思います。実際のところ「自動洗濯機」のほうが +きれいに洗濯してくれるのですから。 + +# 最後に + +この記事を書いたのはソフトウェア・エンジニアです。資産運用に関する記事を書くのは +今回が最初で最後になるでしょう。2 度と書きたくない 💦 + +筆者が調べた限りは、資産運用に関するネット上の情報はそのほとんどが思い込みに基づ +くものであったり、明らかな誤りが含まれていたりと、信頼できる情報は非常に少なかっ +たです。もちろん一部の人は良識あふれる記事を書いていましたが、「普通の人」がそれ +らを自分で発見して理解して活かすのは難しそうです。 + +少なくとも筆者が知り合いに安心してオススメできるような、必要な情報を 1 ページに +まとめた記事は皆無でした。そのため、筆者の考えをなるべく 1 ページ(?)にまとめて共 +有することにしました。もともとは知り合いだけに共有するつもりでしたが、公開しまし +た。これで筆者も次からはこの記事の URL +([https://hayatoito.github.io/2020/investing/](https://hayatoito.github.io/2020/investing/)) +を教えるだけで済みます。公開するとなにか面倒くさそうなことが起きそうな気がします +が、そのときは非公開にします。 + +資産運用はサイエンスというよりはエンジニアリングです。ぜひ専門家の方からのフィー +ドバックをお待ちしています +([GitHub Issues](https://github.com/hayatoito/hayatoito.github.io/issues))。 + +資産運用は眠っている資金を市場に送って必要とする人に適切に届けるという行為であ +り、(間接的に)企業の株を購入し企業活動を応援するという行為です。さらに資産を増 +やすというのは「使えるお金が増える」ということです。増えたお金は必要に応じてどん +どん使っていきましょう。個人にとっても、企業にとっても、経済にとっても、社会に +とっても、Win-Win の関係になれるプラスサムゲームです。 + +この記事が必要な人に届けば幸いです。